parte.4 驚愕
「久しぶり!エミ!!
会いたかったよ〜!!!」
列車から降りた私を襲うように一回り小さな女性が抱きついてきた。
「もう〜、あんな脅迫めいた
事いわれたら
来るしかないでしょ紗弥。」
私は抱きつかれた彼女を右手であやしつつ
優しく話しかけた。
「え〜〜!
脅迫なんかしてないよ〜
エミが参加してくれないからぁ〜〜(泣)」
「はいはい、、、
とりあえずここじゃ
なんだから
早く駅の待合室に行きましょ。」
私はそう言うと
紗弥加の手を取って
手を繋いで駅の出口へと向かっていった。
この子は古山紗弥加、
私の幼稚園時代からの親友だ。
家は離れていて
幼稚園や学校でしか会えなかったが、
幼稚園では彼女と私しか女の子が居なかったのですぐに仲良くなれたのだ。
私には弟がいて、彼女は一人っ子だった。
そのせいなのか、
いつの間にか私が姉、彼女が妹というポジションになってしまったのだ。
また、彼女の体格は普通の女性よりは一回り小さな為、
2人でいると姉妹と間違われたりすることもあった。
高校までは一緒だったけど、たしか彼女は看護学校に進学したから別々になってしまったかな・・・・・
と、私は腕に抱きついてくる彼女の感触に懐かしさを感じながら考えていた。
「サヤ、そんなに
寂しかったの?」
「だってエミ、中学の同窓会
来てくれなかったもん」
そう言って紗弥加は頬を膨らませて私を見上げる。
「ごめんね、私もまだ
先生になったばかりだから
時間なくて、、、」
「でも、今日来てくれたから
許してあげる♪」
笑顔で目を閉じ、私の体に顔を埋める紗弥加に
私は苦笑していた。
「ホント私には
甘えん坊なんだから。」
先生になってからは自分の受け持つ生徒の為に色々と頑張ってきた。
熟練した先輩の先生達ならいざ知らず、
なりたての私に出来ることは時間をかけてでも生徒の為に頑張ることだった。
でも、私の友人には本当に寂しい思いをさせてしまったようだ。
特にこの子は気を許した相手には甘えん坊になってしまう。
そういえば“彼”も大変だったかな・・・・
また私は苦笑してしまった。
「どうしたの?エミ、」
私の顔を覗き込む紗弥加。
「ううん、なんでもないわ。
それより紗弥はどうなの?
たしか大井病院に就職した
って聞いたけど、」
「うん♪小児科病棟の
看護士さん。
毎日が楽しいんだ〜」
「精神年齢が近いから
じゃないの?」
「あ〜!
エミ〜ヒドいよ〜!!」
私の腕をますます抱きしめて彼女は抗議の眼差しと膨れっ面を見せていた。
「ふふっ、ごめんゴメン♪
(ホント胸は羨ましいくらいに
あるわね・・・)」
腕から伝わる柔らかさを受けて私は内心呆れるような思いを抱いていた。
この子は何故か私より大きい。
私も人並みくらいにはあるけど、この子には敵わない。
「あ〜っ!!
また胸の事考えた〜!!」
「そんなことしてないわよ」
私はクールに表情を浮かべて隠し通そうとしていた。
「・・・・・・・・・・
そういえば、紗弥加
有井君が亡くなったのは
ホントなの?」
紗弥加の追求をかわしきった
私は、ふと頭によぎった気になる事を聞いていた。
「・・・・・・・・・。
うん.....
本当だ..よ.
私も信じられなかった」
一転、明るい顔から少し伏し目がちになり目線を落とした紗弥加だったが、
まだ私の腕を抱いたままだった。
「そう・・・・・」
私も静かに声を落として俯きがちになってしまった。
有井勇治
私達とは中学校からの同級生で高校もクラスは違えど一緒だった。
不良で悪ぶっていたが、野球だけは一途に続けていた彼は中学高校とレギュラーで輝いていた。
高校卒業後はたしか車の整備士になったと人伝に聞いたことがある。
私はあまり知り合いではないのだけど、高校卒業してから一年した頃、帰郷した時に衝撃的な出来事を知ったのだった。
彼が死んだ、と
ある日の夜に車でドライブ中に水良川に飛び込んでしまったそうだ。
私はその話しを親からの電話で聞いたときにはびっくりした。
みんな、卒業してから何年かして出会ったときは生きていて再会を祝えると漠然と考えていたからだ。
彼のようにまだ20歳になったばかりでこの世を去ってしまった事に・・・・・
私は驚愕を隠せなかったのだ。
不意に私の腕を包む温かさがなくなっていた。
私が振り返ると、
紗弥加が顔を落として地面に視線を落としていた。
前髪で私からは彼女の目が見えなかったが、
何故だか彼女は泣いているように見えた。
「エミ・・・・・・
亡くなったの有井君だけ
じゃないんだ・・・・」
「えっ・・・・・・」
「実はね・・・・・」
いつもは聞かない紗弥加の沈んだ声を私は聞こうとした・・・・。
「古山さ〜ん!」
私は背後から聞こえる声に振り返る。
私の視線の先には髪の毛を今でいうロン毛のように伸ばしていた男の人がスーツ姿で手を振っていた。
髪型は変わっていたが、私は顔を見て懐かしい思い出の中の彼と重ねる。
「もしかして佐古川君?
ホント変わったわね。」
私は笑みを浮かべてまた後ろを振り返って紗弥加の手を優しく掴んでいた。
「えっ・・・・!
え、エミ!?」
「紗弥にそんな顔は
似合わないぞ♪
今日は同窓会なんだから
楽しもうよっ♪」
そう言って彼女の手を引っ張って佐古川君の下に向かう私に・・・
「・・・・・・・・
うんっ♪」
一瞬でぱあっと明るく表情を変えた紗弥加が手を引かれながら歩いていった。