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 parte.17 執着


「・・・・・・・!」


突然の冷たい指摘に倉橋は言葉を失った。


『僕が知らないと思った?

 父親の権力を後ろ盾に

 お前もそれ相当の事を

 していただろ?』


まるで普段は優しい猫が突然鋭い目つきをして睨むように、彼は倉橋を見据えた。


「・・・・・・な、なぜ

 それを・・・・」


『それだけじゃない。

 お前が知りたい妹の自殺の

 理由だって

 お前はとっくに!』


自由人がその先を続けようとした時だった。









「や・・・・やめ・・て・

 く・・・れ・・」


「あっちゃん!?」


苦しくて、か細い声が彼の言葉の紡ぎを止めた。


私達が振り向くと、先程まで意識を失っていた佐古川君が無理やり立ち上がろうとしていた。


全身をぶるぶると震わせながら身体に活を入れるように起こそうとするが、あれだけ痛めつけられたのだ。いくら治療をしたとしても無理がある事くらいわかっている。


「あっちゃん、動いちゃ

 駄目だっ!」


すぐにそばにいた阪本君が止めに入る。


「カズ・・キ・・・

 お、、俺は・・・」


『篤君。』


いつの間にか、彼は佐古川君のそばにいた。


そして、しゃがみ込んで仰向けに横たわる佐古川君を見つめた。


「た・・・の・・む、

 こ・・・・へ・・

 ま、ま・・・りのた・

 め・・にも・・」


弱々しい声――

先程のあの時まで

あんな立派な男の人の声と同じとは思えない。


私はなんだかやり切れない気持ちに心が締め付けられた。



『・・・・・・・・

 そっか・・。』


そう呟く彼は微笑を浮かべて立ち上がり・・・・・・


ゆっくりと倉橋に向き直った。


目に力強い意志を宿して――――。









『倉橋、お前

 篤君は麻里ちゃんが

 自殺した理由を知ってる。

 でも、その元凶である奴に

 彼は危害を加えなかった。


 何故かわかるか――?』


「えっ・・・・・・!?」


元凶・・・奴・・?


『篤君はな、たとえ奴を

 見つけても復讐なんて

 しなかったと思うよ。』


一息ついてさらに眼光を強める。


『誰だって、いつ不幸になる

 かわからないさ、

 明日、地震にあうか

 わからないし

 誰かを失うかもしれない』


「・・・・・・・・」


『でもな、それを誰かや

 何かに復讐するなんて

 間違っているんだ。



――人間は弱いよ、


 誰かや何か、対象があれば

 それに何かをなして、自分の

 心を満たそうとする』


「・・・・・・・・・」

『特に、どこかの世界で

 あるような・・・・

 自分達が被災して同じ国

 の人がそうならなければ


 恨みたくなる気持ちも

 わかるよ。』


「・・・・・・・・・・」


『でもね、そんなのは

 ただの“執着”さ。


 そんな執着に固執して

 他人に牙を向いて

 何になるっていうんだ。


 そんな事をしても

 自分が虚しいだけさ。』


『自分は自分、他人は

 他人さ。僕はそんな執着

 なんて持ちたくない。』


「・・・・・・・・・」


『大切なのは

 歩みを止めない事、


 他人に復讐などの執着を

 持たず、自分に

 出来ること、

 やるべきことを精一杯

 やってみる。


 それが――僕の自由人と

 してのあり方だし、、、』









『この世界で生きるために

必要だと僕は思うから!!』









バンっ!!


彼が全てを語り終えたタイミングと合わせるように、


会場の入り口のドアが大きな音を響かせて解き放たれていったのだった。










―――――――――――――


入り口が開け放たれた瞬間、多数の警察官が会場に踏み込んできた。


私達はようやく全てが終わったんだなと安堵感に浸ろうとしていた。


だが、私達は気づかなかった――――









彼の心にまた憎しみが沸々と湧き出していた事に。




――執着だって!?


それの何が悪いんだよ!


俺はあそこを追われてから住む場所もなく、帰る場所すらなかった!



公園の水で飢えを凌いで、草木を食べて腹を満たすしかなかった!!



運良くあいつらに拾われて・・・

生きるために色々とやって・・・


時にはやりたくない事もやってきたさ!!


でも、それもあいつらに復讐するために生きたいからやれたんだ!



それなら生きるために執着を捨てなければならなかったのかよ!!!









ふざっっけるなぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁああああああああ!!!!!!


―――――――――――――


「うわっ!!」


「ま、待て!!」

「よ、容疑者が逃走

 したぞ!!」


私達が緊張から解放された刹那、会場の入り口に突っ込んでいく黒い影があった。


それはあの倉橋だった。

身体はあれだけ傷付いて、彼に吹き飛ばされて全身が軋むような音がするくらいの痛手を受けているのに――!


彼はまるで何ともないような速さで入り口にいた警察官達に飛び込んでいった。



警察官達はまさか自分達に突っ込む人がいるとは思わなかった。


もちろん彼等もプロだから予測はしていたのだが、

倉橋の予想もしない突進力に驚いて弾き飛ばされてしまった。



もはや彼は精神が肉体を凌駕してしまっていたのだろう。


私が気がついた時には彼の姿はもう会場から出ていってしまっていた。









『――――――!

 待てっ!!』


とっさに自由人たる・・・・

いや、あの人も会場の入り口に猛獣のごとく走っていった。


「・・・!まっ、

 待って!!!」


私もつられて走り出す。


いや、ここであの人から離れるわけにはいかなかった。


聞きたいことが一杯あったから!


「恵美子ちゃん!」

「塩原さん!!」


背中で同級生の声を聞きながら、私は会場から外に飛び出した。





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