parte.16 独りよがり
部活動から帰ってきた友彦ら兄妹は家があった場所で何時までも待っていたんだそうだ。
でも、両親も祖父もいないんじゃ金銭や食料も確保できない状況で何時までも待つことなんて出来やしない。
彼等は食料を求めて地区の公民館に向かっていったんだ。
幸い地区の公民館は川からかなり離れていた事と、水害対策で数メートル高く作られていた為、水害の難を逃れていたんだ。
そこで、地区の人達が被災した人達に炊き出しをしていたのだけど・・・・
彼らは、、、、、
村八分にされてしまったんだ。
―――――――――――――
バシッッツ!!
「あうっ!!」
「何しに来やがった!
倉橋のガキ共!!」
「お、お願いします!
家が無くなっていて
お父さんやお母さん・・・
お祖父ちゃんがいないん
です!!」
「お願いです。一緒に探して
ください!!」
「うるさい!あれだけ
俺達に対してワガママ
いいやがって!!」
「そうよ!こんな時だけ
都合のいい事
言わないでよ!!」
「お前らなんかにやる
飯なんて無ぇよ!!」
「とっとと、
この地区から
出ておいき!!」
「そ、そんな・・・」
―――――――――――――
『で、その時に倉橋たち兄妹
を追い払ったのが、』
「俺のオヤジだったんだ。」
「えっ・・・・・・?」
突然、今川君がポツリと話しかけた内容に驚いてしまう私だった。
「オヤジ・・・・
相当コイツの爺さんに
煮え湯を飲まされててさ
オヤジは町役場の職員
だったから、かなり
腹に据えかねてたらしい」
そう言う今川君の顔を何かやり切れない想いで一杯の表情を映し出していた。
『まあ、気持ちはわかるよ。
当時の高津野地区の住民
感情は水害によって
かなり追い込まれていた
からね。』
そう言う自由人の顔も今川君と同じ表情をしていた。
『そして――――』
―――――――――――――
地区の住民の助けを得られない兄妹は自分達で両親と家を探して周辺を探し始めた。
でも、彼らの行動力なんてそうそうタカが知れている。
だが、彼らは・・・
諦めずに探していたんだ。
でも・・・・・・・・
水害からあって2週間もしない時に・・・
妹の麻里さんが自殺したんだ。
―――――――――――――
「――――っ!?」
彼が話し続けるあいだに私は息を飲んだ。
――じゃあ、彼は家族をすべて失ったの?
あの水害のせいで――!!
私の“信じられない”という表情を知らずに彼は話し続ける。
―――――――――――――
友彦が気づいた時には高津野にあった高台から身を投げた後だったそうだ。
遺書は見つからなかったけど、携帯のメール画面に「ごめんなさい兄さん」と未送信のまま遺されていたんだそうだ。
だが、地区の住民達は彼女の葬式すら手を貸さなかったそうだ。
この時に倉橋家にはもう親戚筋はいなかったそうだからね、
元々、ある意味悪名高い家である事やその性格からか親戚筋の中でも嫌われていたし、この水害で唯一の分家も亡くなっていたそうだから、
そんな状況でまだ高校生である友彦には家も資金も何もかも無くした彼には葬式
なんて出来なかったんだ。
結局、葬儀も行えず遺体だけ火葬してもらった友彦は――――
ある日、地区から姿を消した。
麻里さんの遺骨だけを持って、
残骸となった家を残してね…………
―――――――――――――
『その後、麻里さんの件で
警察も不審死として
動いたみたいだった
けど、、、
地区の住民達は
“倉橋の一家はみんな
水害によって亡くなった
もしくは行方不明に
なった。”
と、口を揃えて言う
ようになって。
全ては闇に葬られたんだ。』
一通り話し終えた彼は、再び大きく息を吸い込み「ふぅ、」と溜め息をついていた。
「・・・・・・・・」
誰もが言葉を失っていた。
自分達の住んでいた町でそんな事が行われていた事に、
もちろん、ここにいるのは全て高津野地区の人達だけではないが、
自分の親がもしそれを知っていても知らない振りをしていたのかもしれない、という事実に言葉を失っていた。
だが、突然の怒号により静寂は破られた。
「ああ!そうだよ!!」
それは彼、
倉橋の憎悪に満ちた怒りをはらむ声だった。
「あの時に俺達に酷い事した
奴らに復讐するために
俺は計画を練ったんだ。」
また彼の顔はあの時にスイッチを押す前に見せた憤怒に歪んでいた。
「それで、やっと今日の
同窓会が行われるのを
知った俺は準備を整えて
いたんだよ!!」
『今日の同窓会に佐古川君が
幹事として参加する事も
知ったからだろう?』
「ああ、こいつ高校を
卒業してからめったに
こっちに帰って同級生
にも会わなかった
らしいからなぁ。
やっと同窓会という
表舞台に出てくると
知った時には嬉しさに
震えたよ。」
もはや普段の倉橋の声じゃない。心の奥に隠していた本物の“彼”、
私は一瞬
身体を震えさせてしまう。
「幸い、爆弾やこいつらは
ある所から容易に調達
出来たからなぁ、」
『なんでみんなを
巻き込んだ。あんたに
酷いことをしたのは
彼らじゃなくて
彼らの親達だろう?』
自由人はもう悲しみの感情を持っていない。むしろ静かな怒りを宿すような声をしているように私には聞こえた。
「何言ってんだよ。
それじゃ俺と同じ痛みを
味合わせ
られないだろう?」
『・・・・・・・・』
「だからコイツラ諸共
吹き飛ばしてアイツらの
大事な者を奪えば
少しはわかると思ってさ」
ハハハハハハ・・・・・
そんな乾いた狂気に笑う倉橋の姿に私はもう彼に対する怒りは消えていた。
――彼も被害者だったんだ。私の親も知っていたのかな、
もしそうなら、私も彼の事は、、、、
そんな事を考えていた。
「あとは佐古川さえ
俺の手で始末したかった。
当時、野球部のマネー
ジャーをしていた麻里は
佐古川とつきあってた
らしいからなぁ」
『そうらしいね、
だが、くらは』
「アイツが麻里を
殺したんだ!!
アイツ最後に佐古川に
会いにいったらしい
からな!!
だから
アイツだけは・・!」
「違う!!」
二人の言葉だけが響く会場を別の誰かの言葉が響く。
それは、気を失っている佐古川君を抱き寄せていた阪本君だった。
「あっちゃんは麻里ちゃんを
殺してなんかいない!
むしろ麻里ちゃんがなんで
死んだか調べてたんだ!」
『・・・・・・・』
「なっ・・・・?」
阪本君の話した内容は倉橋を大きく戸惑わせた。
「あっちゃん、携帯で
麻里ちゃんに呼び出された
けど、、、
あっちゃんが駆けつけた
時には高台にはどこにも
いなくて・・・・
でも、近くの人に聞いても
“水害で行方不明
になった”
としかわからなくて・・・
高校を卒業して大学に
入っても、帰郷した時は
時間の限り調べてたんだ!
もちろん友彦、お前の
行方も探してたんだよ。」
――だから同窓会にも同級生にも会う時間がなかったんだ。
私は当時の佐古川君を思い浮かべて納得していた。
彼は野球部のキャプテンを務めていた時から責任感は人一倍だったから、
「なんで麻里ちゃんが
自殺したのか僕にも
分からないけど、
……あっちゃんにこんな事
をするのは間違ってる!」
普段は温厚な阪本君がこんな怒りを含んだ事を言うなんて、
私は驚いていた。
「じゃ、じゃあ麻里が
自殺した理由は………?」
『だから“独りよがり
の復讐”だって
言ったんだよ。』
また、いつもとは違う低く重みのある口調をした自由人の声が会場の雰囲気を切り裂いた。
『ついでに言えば・・・
お前なんかに人を恨む
権利なんてこれっぽっちも
無いがな・・・・・!』
自由人たる彼の声が倉橋を打ちのめした。