parte.15 水害
「なっ・・・・・!?
なぜ俺のフルネームまで
知っているっすか!!」
倉橋も私もなぜ彼が知っているのか驚いていた。
だが、私はすぐに前にも頭によぎったことを思い出しすぐに平静を保つことができた。
「(やっぱり・・・・)」
そうなんだね・・・
貴方は・・・・!
『それだけじゃないさ、
お前が今回の事を起こした
理由、いやみんなや
篤君に復讐する理由も
知ってるよ。』
自由人を名乗りし彼は余裕な笑顔を浮かべてはいなかった。
その表情は後ろにいる私には見ることができなかったが、
私にはわかった。
あの人なら――
この声なら―――
とても悲しい事を知った時にする悲哀の表情だろうから――
「何があったの?」
私はあの時、地元にいなかった。
だから彼がなぜこんな事をしたのかわからない。
だから、聞かなきゃいけない。
もちろん彼のした事は許されないことだ。
でも、相手の言い分も聞かずにその行為だけを非難することも、、、、、、、
私はやってはいけないと思う。それは私の先生としての主観も含まれていた。
『―――話してもいい
のかな?
亮君、いや今川君?』
私の問いかけを聞いてからしばらくして自由人である彼はくるりと振り返って私の後ろにいたある男性に問い掛ける。
「お、お前・・!
なんでその呼び方を?」
あの時、倉橋に“今川センパイ”と名指しされた今川君
――たしか今川亮司君だったっけ――
は、驚いた声を発していた。
「その呼び方をする奴なんて
・・・・・・?
……!ま、まさかお前は」
『そんな事はいいから』
また自らの言葉で相手の言葉をかき消す彼、
『君の両親も関係する事だけ
ど、話していいかな?』
彼はスッと目を細めて今川君を見つめた。
その視線には相手の遠慮と、ある種の非難が含まれているような・・・・・・
私にはそう見えた。
「・・・・・・ああ、
わかったよ。部活の先輩と
してコイツを庇えなかった
俺にも責任があるからな」
そう言うと今川君は彼の視線に応えるように若干見つめ直し頷いた。
『・・・・・ここにいる
みんなの中にも知って
いたり知らなかったり
する人もいるかも
しれないけど
・・・・・・聞くべきだと
僕は思うよ。』
そう言うと、彼は長話になるのがわかるのか、ひと息深呼吸をしてから話し始めた。
―――――――――――――
――倉橋の家は元々地元でも名士の家で
彼等の住む地区、高津野ではいつも地区の代表として大井町の議員としても有名だったんだ。
だが、彼の祖父
まあ、お爺さんは町にとっては頭の痛いほどの偏屈な人だったんだ。
例えば、地区の墓地として提供した自分の土地を完成した途端に“返せ”と喚いて町役場に怒鳴り込んできたり、
また、同じ地区の近隣住民とも身勝手な行為によるトラブルが耐えなかったらしいんだ。
おまけに彼の息子、すなわち友彦の父も彼から議員の職を引き継いでからは、かなり横暴な事をしていたそうなんだ。
――だが、そんな時に。
大井町を無慈悲に襲ったあの水害、
“水良川大水害”が起こったんだ。
不幸な事に、倉橋の家は地区の中で水良川から一番近い場所だった。
これは彼のお父さんが川釣りを趣味にしている事にも関係しているんだけどね。
一番、水害でも威力を受ける所にあった倉橋の家はあっという間に川水により崩壊して流されたんだ。
――その時、家にいた倉橋の両親とお爺さんも一緒に流されて・・・・・・
自宅があった場所から何百メートルも離れた場所から遺体となって発見されたんだ。
自宅の残骸と共に・・・ね。
生き残ったのは、その時に部活動で帰宅が遅れた友彦と麻里の兄妹だけ、
あと残ったのは無惨に生活を形成していた家の名残だった。
―――――――――――――
「で、でも・・・・
それだけなら・・?」
私は彼が一息ついたのを見計らうように口を挟んだ。
あの時の大水害は大井町の半分を襲ったと聞いている。
私の実家や紗弥加の家は山の奥側にあったため難を逃れたが、
水良川周辺の家々は泥水に浸かってしまい、数年たったいまでも家の壁から砂や乾いた泥の屑が浮き出るのだそうだ。
『いや、倉橋が
復讐した理由は
ここからなんだ。』
そして、さらに彼は語り出す―――
―――――――――――――
水害が収まり水が引いた後、無事だった世帯は被災した世帯に救援に向かったんだ。
昔からこの大井町は町を横切る水良川の氾濫には悩まされていた。
だから、こういった助け合いは地区ごとにしっかりしていて水害から立ち直るのも速かったんだ。
でも・・・・・・
高津野にあった倉橋の家には、、、、、、、
誰も救援に来てくれる近隣の世帯がいなかったんだ。