parte.13 白昼夢
「さやっっっっ!!」
私は叫んでいた。
あんな悲しい顔の紗弥加を見たくなかったから。
涙で顔を絶望に染め上げて崩れ落ちたあの子を見て胸が締めつけられそうだったから―――!!
気がついたとき
私は両目に溢れ出てくる涙に気付いた。
思わず私は手を頬に当てて涙の流れた跡をなぞっていく。
「えっ!?」
私は驚いていた。
私は見ていたハズだ。
瓦礫となった建物を前に両手を頭にあてて崩れ落ちた紗弥加を!
あの時に、ほとばしる爆風で全身を焼かれるような痛みを感じていたはずだ!!
でも、、、、、?
私は思わず自らの全身を素早く確認する。
――何ともなっていない!!
確かにあの時殴られた横腹はまだ少し痛いけど・・・・・
同窓会に着ていったスーツは傷一つ破れ目一つついていなかった。
「ど、どうして・・・・?」
私にはわからなくなった。
確かに爆弾は爆発したハズ・・・・?
爆弾のあるテーブルはまだクロスがかかったままだし、
そのクロスも吹き飛ばされていない。
あの時、倉橋がボタンを押す前の状況にすべてが戻っていた。
いや、戻っていたのか?
もしかしてこれが“白昼夢”というやつなのだろうか?
しかし、私はある声を聞いて頭で思考していた事から現実に引き戻される。
「う゛っ・・・・
うううぅ・・・・」
「い、痛ぇ・・・・
痛てぇよ・・・!!」
私は声のする方を辿る。
それは私の前にある床から聞こえていた。
みると、私達を拘束していた覆面の男達が呻いていた。
驚いた事に、
男達の服装はボロボロになっていた。
まるで、そう――
爆発にでもあったように。
しかも、私とは違い男達の服装にはうっすらと血がついていた。
おそらく内出血をしているのだろう。わずかに見える肌の部分は青紫の斑点が浮かび上がっていた。
男達は全身を両手で抱えて転げ回ったり、痛みのあまりに失神する者もいた。
「え、恵美子ちゃん..
だ、大丈夫?」
私が振り返ると、そこには1人の女性が立っていた。
私の同級生の1人である今西さん、バレー部では共にレギュラーとして参加していた人だ。
「大丈夫よ真希子ちゃん、
真希子ちゃんこそ
大丈夫?」
一応、彼女の全身をみてみたが、彼女のブラウスもなんともなっていなかった。
「私も爆発で全身に痛みを
感じたのだけど・・・。
恵美子ちゃんの叫び声で
気がついたら元に
戻っていたの」
――!
私だけじゃない!!
私は辺りのざわめきに思わず周りを見渡した。
私の同級生達も「ば、爆発したのに!」「ど、どうなっているの?」等々
それぞれお互いに疑問を話し合っているようだった。
『どうしたの?みんな』
不意にそんな困惑する雰囲気で膨らむ風船を弾くように貫く言葉、
みんなはその言葉の出元に顔を、体を向けていた。
その言葉を発したのは自由人と名乗りし彼、
だが彼は先程爆弾を起動させた男と対峙した時とは様子が違っていた。
彼はこちらを向いていた。
私はその顔になんだか見覚えがあるような気がしたが、
彼が誰かを両手で抱いているのに気がつき、そちらに気を取られてしまった。
彼は佐古川君をいわゆるお姫様抱っこして立っていた。
私は佐古川君を見て驚いていた。
佐古川君はあの時に倉橋達に痛めつけられたため顔や全身が腫れ上がっていた。
だけど、今の佐古川君は着ているスーツは赤く汚れていたが、顔や手などスーツから見える部分がきれいに治っていたのだ。
撃たれていた脚も出血が止まっていて、傷口をタオルが巻いてあった。
「あっちゃん!」
「篤っ!!」
佐古川君に駆け寄る2人の同級生、彼等は中学から同じ野球部で頑張っていた阪本君と松本君だろう。
『もう大丈夫、撃たれた跡は
ちゃんと止血して治療した
から、
怪我も殆ど治したよ。』
そういってニカっと笑いかける彼の笑顔は佐古川君の親友や私達に力を与えてくれるみたいな明るさがあった。
『ただ、殴られた時に
頭を強く打ったかも
しれないから
なるべく急いで病院で診て
もらったほうがいい』
言い終えた彼は佐古川君の身体を目の前の2人に託した。
2人は佐古川君をゆっくり床に降ろして様子を見ていた。
『さて・・・・と・・・』
佐古川君を託してひと息ついた自由人は私のいる方向に歩いてきた。
そしてそのまま私や同級生達を通り過ぎて会場の入口にいる男の下に歩いていく。
その男も倉橋の仲間だったのだが、なぜか他の男達とは違い全身の傷が比較的少なかったのだ。
『と、云うわけで
僕達は早く病院に
行きたいんだ。』
自由人は座り込んだまま自分に怯えている男を見下ろして穏やかに話した。
『だからさ・・・・・
この入口を開けてくれない
かなあ?』
ここまではまだ“依頼”という形なのだったが、
次に聞いた声はもう・・・・
『嫌だっていうなら・・・・
お前の命、今すぐ
消し飛ばすぞ。』
ドスの効いた静かな恫喝だった。
「はっ・・・・・・
はいぃぃぃいい!!!
わ、わかりましたから
殺さないでくれ!!!!!」
私にはわからないけど、
おそらく男達はあの爆発を本当に喰らったのだろう。
理屈はわからないけど、
あの怯え方は尋常ではない。自由人に脅された男はすぐに会場の入口を解除し始めた。