parte.11 覆る状況
『ただの・・・
自由人だっ!!』
私の目の前にいた彼は凛然とした様相で覆面の男達に言葉をぶつけた。
「ふっ・・・・・
ふざけるなぁっっ!!」
彼が言葉を発してから少し間をおいて
彼に一番近くにいた男が襲いかかった!
右手に伸縮する警棒をシャキン!!という音と共に振りかざし
彼に真正面から殴りかかった!
「ふんっ、、」
彼は顔を少し動かして鼻を慣らすと
左手にある警棒を右手に素早く持ち直して男の警棒を左に薙払った!!
ガキィィィン!!
2つの警棒が奏でる金属音が会場に鳴り響く!
だが、彼は男の警棒を完全に吹き飛ばしてなかった。
彼は素早く身を右に回転させ、警棒をもつ腕の肘を男の右横腹に叩き込む!!
ドォォォォン!!
襲いかかった男はすぐさま私から見て右に吹き飛ばされてしまった!!
ガアァァァアアン!!
「ぎあっっ.....」
男は低く呻いた。
その声は喉の器官から絞り出したように私には聞こえた。
吹き飛ばされた時に男は頭から先に壁に当たってしまったようだ。
スローモーションのように男が床に落ちていく際に、男の耳と鼻からは血が垂れていくのがわかった。
ドサッという音と共に会場はまた静寂に包まれてしまった。
「・・・・・!!??」
もう男達の中には無謀に後に続いて襲いかかる者はいなかった。
――それはそうだろう。
到底、同じ人間が殴って出した衝撃音ではない。
まるで自衛隊で使うような武器の砲撃音と同等の大きさと威力、
さらに男は吹き飛ばされてから壁に至るまで5、6メートルはあったのだ。
いくら軍隊経験者でもかなりの猛者でないとあんなに人間1人を音速に近い速度で吹き飛ばすことは出来ないはずだ。
これらの事を男達は本能で悟ったのだろう・・・
後に続こうにも、
怯えにより足が進む事はなかった。
「・・・・・・・。」
私も、まるで目の前の出来事を信じる事が出来なかった。
見たモノは体では理解できても
頭が、脳が追いついてきてくれない。
私は言葉を使うことすら忘れてしまうほどに
ただ静寂を受け入れるしかなかった。
『大丈夫だよ。』
不意に声が響いた。
目の前にいる自由人と名乗る彼、
その彼は目の前の男達から目を反らしてはいなかったけど、
私に少し顔を動かして話しかけているみたいだった。
『紗弥加ちゃんは無事だよ。
今は警察に保護されて
いるハズだから。』
その言葉は私にとってすぐには信じられなかった。
でも、私から少し見える彼の横顔がニッと口元を綻ばせるのを見ていたら
私はなぜか信じられると思い
喜びで心が満たされていった。
「な、なにっ!!」
だが、私達を拘束していた男達には
突然地割れにでも飲み込まれてしまうほどの、驚愕してしまう状況だった。
「お、お前っ!!
か、亀山はどうした!!!」
男達の中の1人が叫ぶ。
自分達が有利な状況の中で覆される場面、
そんな状況ならあの男のように青ざめた表情で狼狽するのも無理はないだろう。
『へ〜え、あの人
ホントに“亀”だったん
だね。』
不意にふふっと笑う目の前の自由人と名乗った彼、
だが、彼以外の私達にはそれが何を意味するかわからなかった。
『さあね、僕がここに侵入
した時に紗弥加ちゃんの
悲鳴がしたから
助けただけだよ。』
―そんな奴の事なんて知らないね。
彼はまるでそう言わんばかりに肩をすくませて両手を広げ
“やれやれ”のポーズをとっていた。
「し、侵入だと!?
周りを見張っていた
あいつらはどうした!!」
またもら男達の中からそのような叫び声が上がる。
――あいつらと云うのは多分あの時に出て行った彼らだろうな――
私はそう直感した。
私達が最初に男達に銃を突きつけられた時に、ボスである倉橋はすぐに自分達を二つに分けて行動していた。
一つはこの同窓会の会場である市民会館の周りを見張る集団に、
もう一つは倉橋が中心となって私達を拘束・見張る集団に
それぞれが10人程度に分かれていたので、今この会場にいる男達は倉橋を除いて8人である。
『ああ、あいつら?』
男からどうしたと聞かれた自由人は“そんな奴ら居たっけ?”とも言わんばかりのとぼけた顔で明るい語調で話す。
『自分で確かめたら?』
その言葉にはじかれるように会場の外を窓から覗き込んだ男達だったが・・・・
「・・・・・・・!!!
そ、そんなバカな・・!」
やがて絶句して絶望感に打ちひしがれるように2、3歩後退り座り込んでしまった。
私も遠目ながら今いる場所から窓を見ていたが、
すぐさま飛び込んできた映像に信じられず、窓に駆け寄って覗きこんでいた。
――あの時殴られた横腹の痛みなんて、忘れてしまっていたのだ。~――