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 parte.9 無力


バキッ!

ドカッ!!

バキッィ!!


私は耳を疑いたくなった。


本当は楽しい談笑の声しかしないはずの同窓会の会場は・・・


今や悲惨な打撃音が鳴り響いていた。


「へっ・・・・・

 やっと大人しく

 なったっすね。」


そう吐き捨てると

倉橋は男達に命令して拘束を解いた。


拘束を解かれた男は膝から崩れるように倒れ込む。


男―佐古川君―

は頭、胸、手足にかなりの打撲跡を浮き上がらせていた。


あまりにも警棒で殴られ続けたため、あの立派なスーツはみるも無残な有り様になってしまっていた。


正直、私も目を反らしたい気持ちになってしまう程に。


藍色のスーツに赤黒い跡が浮き上がっているのを見れば、誰もがその凄惨さを想像できるだろう。


「・・・・・・っ!!」


その様子を見た私は唇を噛み締めて立ち上がった。


「あ、あなた・・・!!

 さ、佐古川君になんて

 ことするの!」


殴られた脇腹はまだ少し痛むが、持ち前の精神力で押さえ込み叫ぶ。


「だからいったっすよ?

 復讐だって」


倉橋は悪びれた様子もなく言葉を軽く放つ。

そして、倒れ込んだ佐古川の腹を蹴り飛ばした。


「・・・ぐ・・ぅぅ・・」


もはや呻きさえも吐き出せない彼は蹴り飛ばされるまま仰向けに転がっていた。


「・・・・・・・!!」


その時だった。


私はとっさに倉橋と佐古川の間に割り込み

両手を広げて倉橋を止めるように立ち塞がった。


「エミ!」「塩原さん!」「恵美子!!」


周りからみんなが心配になり声を叫ぶ。


だが、彼らは倉橋の部下である男達に阻まれて私や佐古川君の所に来られない。



「もうやめなさい!!

 もう十分でしょう!」


私は倉橋の目を睨み付けて声を張り上げた。


「あなたと佐古川君の

 間に何があったのか

 私は知らないわ!!


 でも・・・・・!」


私はさらに倉橋に言葉をぶつけていく!


「だからといって!

 紗弥加やここにいるみんなに

 酷い事をする理由には

 ならないのよ!」


一通り喋り終えた私は少し息を切らせながらも

倉橋の前から動かず

むしろ震える脚を抑えて立ち直す。



―――本当は怖い!


まだ、私は学校で不良とかを相手に立ちふさがった事なんて・・・・・ない


でも――――――!



それでも、ここで引いてしまったら・・・


私、先生としても

人としてもいられない!――――――



私は勇気を奮い立たせて再び倉橋を見据えた。



「・・・・・・・・・

 理由ならあるっすよ」


だが倉橋は私の威居えた視線をもろともしないで見つめ返した。



その目は先ほどまでに佐古川君を狂気の笑みを浮かべて痛めつけた人物とはいえ思えない程に、


静かに、暗く、無表情な表情をしていたのだった。




「塩原センパイは

 あの時、ここに

 いなかったから

 わからないっすよね」


まるで静寂を身に着けたような雰囲気を纏う倉橋はそう喋り続けた。


「あの水害で、俺は

 父さんと母さんを

 失って・・・・


 それからこいつらの親が

 何をしたのか・・・!」


徐々に語気に怒りの感情を乗せつつあるのが私にもわかった。


「そうっすよね!

 今川センパイ!!」


そう唸る倉橋の声に弾かれるように私は周りにいる同級生の中にいた男の人を見ていた。


「・・・・・・・・!

 お、お前・・・!

 あの時の事を・・・?」


「ええ、そうっすよ!

 俺はあんたらの親のせいで

 丸裸同然に町を

 追われたんだよ!」


言葉を叩きつけるように話す姿に、

私は倉橋の憎しみがついに爆発したような気がした。


「だったら!

 みんなには直接関係

 ないじゃない!」


「わかってないっすね〜

 センパイ」


私の張り上げた声を倉橋はやれやれといったポーズをとって愚痴るように喋る。


「俺は大事な家族や居場所を

 あいつらやそこにいる

 センパイに奪われたんすよ?」


「え・・・・?」


「だったら同じ苦しみを

 味合わせてやりたいじゃ

 ないっすか。」


そう言い切った倉橋はもう、割り切った憎悪を顔に張り付けていた。


「ここを吹き飛ばして

 お前らを皆殺しにすれば

 あいつらに同じ苦しみを

 与えてやれるっしょ?」


「あ、あなた・・・・!」


私は彼の狂気に触れて気分が悪くなりそうだった。


「で〜も、コイツだけは

 爆弾じゃなく俺の手で

 殺さなきゃ♪」


そう楽しく言葉を連ねる倉橋はポケットからナイフを取り出した。


「――――――!!」


私は彼の手に握られた鈍い光に目を見開く。


――間違いない。


彼は私の後ろにいる佐古川君を刺す気だ!!―――


「塩原センパイ。

 どいてくれっす」


気がついた時には私と倉橋の距離はもう一歩くらいしかなかった。


「―――――!!」


「センパイ、俺はそいつを

 殺すっす。

 妹の敵討ちですから」


「あなたは―――!」


不敵にナイフをちらつかせる倉橋に私は怯まずに立ち向かった。


「あなたはただの八つ当たり

 をしてるだけじゃない!


 事情は詳しく知らないけど

 私は絶対にどかないから!」


―――紗弥加だって今頃必死に抵抗して頑張ってる!!


私は絶対に引かない!!―――



先生としての使命感、

紗弥加を助けにいきたい想い


それらが全ての力となって私を恐怖から奮い立たせていた。









「・・・・・・・・・・

 そうっすか・・・」


一瞬、倉橋はまた静寂を纏った無表情になっていったけど・・・・


すぐに怒りの表情になって私を睨んでいた。


「邪魔するなら

 関係ないセンパイでも

 殺すっすよ!!」



そう叫ぶ倉橋は銀色の軌跡を描いて、



ナイフを私目掛けて振り下ろした!!









「やめてぇぇぇえ!!」


「塩原さん!!」


「いやぁぁぁああ!!」










ああ・・・・・・


私、殺されるんだ・・・・


紗弥加も助けられないまま・・・・



振り上げられたナイフがなんだか遅く見える・・・・・



私は静かに目を閉じた。









瞼に映るのは

紗弥加やお父さん、お母さん、


大学の同期の友達や


妙ちゃんやマキちゃん達クラスメートとの楽しい日々・・・・




ああ、、、

これが走馬灯ってものなのかな・・・・




ごめんね紗弥・・・・


助けてあげられなくて・・・









ねえ、もし聞こえていたら


ここに来て!


みんなを助けてよ!!









紘平君!!



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