parte.8 解放
騒ぎが起きている市民会館から少し離れた公園に、ひとりの人影があった。
もうすぐ夕暮れ時になりつつあるオレンジ色の世界の中で、青年は女性を抱き上げたまま歩き続けていた。
青年は公園の中央にある噴水近くにある芝生まで歩を進めると、静かに腕の中にある彼女を降ろしていった。
まるで恋人を扱うように優しく繊細に、
彼女を見つめるその顔は
無理に笑顔を浮かべていた。
やり切れない気持ちで曇らせた顔を隠そうとして―――
『ひどい、、、、
こんなに頬が
腫れるまで殴るなんて・・』
そっと手を彼女の顔に触れる・・・
「んっ・・・・
い、いや・・・」
寝言なのか、
彼女は気を失ったまま口からそう漏らした。
触れられた頬の痛みからなのか、彼女はまだ心に襲われた感覚が蘇ってしまったのだろう。
青年は一瞬、手を引っ込めてしまった。
『もう・・・・・
大丈夫だからね
さやかちゃん・・・』
そう言うと青年な右手に“力”を集中させた。
あの時に男を殴りつけた破壊の“力”ではなく、
癒やしの光を手に宿して再び彼女の頬に触れた―――――
・・・・・・・・・
あ・・・・れ・・?
わ、私
どうしちゃったんだろう?
たしか、、、
男の人に襲われて・・・
む、胸を見られて・・・・
でも、今は・・・・
そんな怖い感じじゃない・・・・
なんだか温かい・・・
この温かさ・・・・・
覚えてる・・・・・
私、覚えてる・・・・・
これって・・・・・
あ・・・・?
頬に冷たい・・・・
いや、温かな感じ、
これ、誰かの手みたい。
――少し目を開けてみた。
まだ視界がぼやけたままだ。
焦点が合わない・・・・
でも、わかる・・・・
誰かが・・・・・側にいる・・・
だ・・・・れ・・
え・・・・・・・・
なに・・・・・・・
頬に触れた手が温かくなって………………
何だか暖かい・・・
まるで体が癒されていく感じ・・・・
この温かさ・・・・
もっと欲しい・・・・。
――――――――――
『えっ・・・・!?』
それは青年にも予期しなかった事だった。
彼女は頬に触れた青年の手を無意識に手に取っていた。
そして優しく握っていく。
彼女が腕を上げた為、破かれたブラウスがはだけて・・・・
隠されたものが見えてしまった。
『//////////!!!』
青年はこのテのものに弱かった。
目を反らしたかったが治療に集中しているため動くことが出来なかった。
不意に喉が唾を飲み込んでしまう。
『(うううっ・・・)』
青年にとっては永遠にも思える時間だった。
治療が終わった青年は立ち上がり彼女を見下ろした。
その際に少し身震いする。
今の青年の上半身を纏う服はさっきより薄くなっていた。
だが、すぐに青年の体には熱気がまとわりついてきた。
それは“怒り”
いや使命感とも思える感情が“力”と共に溢れかえっていった。
『お前がこんな無関係な人達
を巻き込むなら・・!』
ブンッ!!
憤怒の感情を乗せて右腕を振るった。
ゴウンッッ!!!
すぐさまそれは強い衝撃波となって公園の木々を凪いでいった。
『俺は・・・・・・
お前を止めてやる!!!』
青年は“力”を込めた拳を握りしめて
静かに唸っていた。
「えっ!?」
紗弥加が気がついた時にはもう誰も居なかった。
近くを見渡すと
見覚えのある噴水が目に飛び込んできた。
そこは紗弥加にも覚えのある公園だった。
同窓会の会場となる市民会館から近くの公園だった。
紗弥加が身を起こすと黒い服が自分にかけられている事に気付いた。
それは黒いポロシャツだった。紗弥加はすぐに手に取って広げてみた。
『これ・・・・
あの時、
助けてくれた人の・・?』
その時、ポロシャツの胸ポケットに紙切れが入っているのに気がついた。
――気がついたかな?
この公園を出たらパトカーが止まっているはずだから保護してもらって。
頬のケガはちゃんと治しておいたよ。
あとは僕に任せて
信じて待っててほしい。
君の大切な恵美ちゃんを助けてくるよ。
追伸:ホントは服も着せておきたかったけど・・・・・・・
恥ずかしいから無理だった(^_^;)
だから僕の服をかけておくね。――――
「……………………
一体、誰だったんだろう?」
紗弥加はポロシャツを抱き寄せながら………
ずっと考えていた。
そして、服についていた匂いに顔をうずめた。
「あ・・・・・・
なんだか懐かしい
匂い・・・・・
もしかして
“あの人”の・・・?」
その姿を巡回中の警察官が見つけたのは、それから間もなくの事だった。