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花火の帰り道

作者: ひとは
掲載日:2026/08/14

 これは僕が実際に体験した話を元に多少脚色をして書いている話です。

 もしどこか分かる方がいるかもしれませんが、思い出しながら書いているので細部が違うこともあるかと思います。ご了承ください。


 ◻︎


 もう10年前くらいの夏のことです。

 当時、付き合っていた彼女と花火大会に行きました。その花火大会は地元では有名ですが、あまり地域外の人が多く来場するような花火大会ではありません。

 少し山の方にある町が会場で電車は通っておらず、バスは通っているのですが帰りの時間には都市部に戻る便は無くなってしまっているようなところです。外の人が花火を見に行くためには車で行くしかありません。

 花火の観覧会場も海辺や湖、河川敷などではなく地元の小学校の駐車場が会場になっていました。田舎なので近くに広場が多く、車での来場者は周辺に用意された臨時駐車場に停めて会場までは歩いていく形です。

 臨時駐車場から会場までわずかばかりですが出店も出ています。

 僕たちはこの町の住民ではなく、この町に親戚や知人が住んでるわけでもないので当然車で行きました。


 花火大会は問題なく終わりました。

 確かに地域の花火大会としては大きめだったのですが、この後の出来事もあってたか、残念ながらこの日の花火はあまり印象に残っていません。


 花火大会の日は花火の後に雨が降りやすくなります。

 僕も花火大会の日の後はよく雨に見舞われますが、これは偶然ではないみたいです。

 元々、夏は雨が降りやすく花火による上昇気流と煙と塵のせいで雨が降りやすく根拠はあるようです。


 この日も花火の後、雨に見舞われました。


「なんとか車まで戻れてよかったね」

 雨が降り始める前に車に乗ることができて安心した僕は彼女に言いました。

「うん」

 口数は元々少ないので表情から察するしかないのですが機嫌は良さそうです。花火が綺麗だったことに満足したのでしょう。


 会場から家に帰るまでの道はさっぱり分かりません。

 来る時もカーナビに頼ったのですが、今と違ってカーナビはスマホのナビのように自動更新はありません。ディスクを読み取っていたので古い地図のままです。

 行きはまだ明るかったのでナビに頼りながらも迷わず会場に来れました。

 帰りもナビに頼らないと帰ることができません。

 知っている道まで出ればナビを見なくて帰ることができるので、一旦自宅を目的地にセットします。


 車を駐車場から出すことに成功しナビに従って走り始めます。ポツポツと降り始めていた雨も強くなってきました。ワイパーも強く動かさないと前が見えません。


 少し車を走らせて気付いたことがありました。初めて来る場所で周りの景色は全く覚えてないのですが、来た時と景色が違うように見えます。来た道をそのまま帰ればよさそうなものですが、カーナビはそのルートを提示してくれませんでした。


「何か来た道と違わない?」

 俺がそう言うと、

「あまり覚えてないかも。でも、ナビに従って走れば帰れるよ」

 彼女はのんきなものです。


 確かにここは外国でもないですし、国内でも自宅から遠く離れた場所でもありません。ナビ通りに走れば大丈夫なはずです。


 しかし、カーナビに表示されている画面を見ても全くどこにいるか分かりません。しかも、来た時の道とは全然違う場所を走らせています。

 雨足も強くなっているせいで周辺も目視で確認できませんでした。


 それからしばらく走ると道路工事をしているのか迂回案内の看板が出ていました。

 雨でよく見えないのですが通行止めのようです。

 迂回路の案内も看板に書いてあるのですが、これも雨でよく見えません。


「ナビだとこっち経由で大きな道に出れそうだけど……」

 彼女が画面を見ながら指をさしてる。

「そうだね、ナビの道を見ながら走れば帰れそうだね」

 僕はそう言ってハンドルを右に切り山道の方へ入っていきました。

 通行止めは新しくできたトンネルで山道を抜けなくても主要道路へ出れるようでした。何らかの理由で通行止めになっていたようですが花火大会の日くらいは通行可能にしておいて欲しかったものです。


 山道もナビの案内はないものの画面を見る限り一本道でして順調に進んでいきました。

 山頂にたどり着いていよいよ折り返しで下るのみになりまた。

 大きな道まで出れば後はナビ無しでも帰れると思いました。


 下り道に入ったところで異変が起きました。

 元々、口数が少ない彼女が話さないのはわかる。寝てるかもしれない。

 だが、自分まで声を出せなくなっていた。

 口を開けないのだ。

 鼻呼吸で息はできます。


 しかし、これがよくありませんでした。

 車内に線香の匂いが充満しました。

 そして、お経と木魚の音が聞こえてきます。

 普段、家で線香の匂いを嗅いでも日本の原風景の一つだと思って気にはしません。お経も木魚の音も法事に参加していれば気にならないものです。

 ただ、今は状況が違います。

 車で道を走っている時に線香の匂いが車内に急に充満して、お経や木魚の音が聞こえてくるのです。

 明らかな異常事態です。


 今、下り道です。

 幸い冷静な判断ができました。

 アクセルとブレーキを確認します。このままスピードが上がって下り道で車がコントロールできなくなることは無さそうです。

 横を向いて彼女の顔も見ません。

 ルームミラーを見て後部座席を確認することもしませんでした。

 そのまま平気なフリをして車をひたすら走らせました。


 なんとか下り切ってナビを見た時に気付きました。

 この坂の近くには先ほど通ることのできなかったトンネルができる前に使われていた古いトンネルがあります。

 今はそちらも使われておらず通行もできないのですが、ここはネットで話題になるだけでなくテレビの心霊特集でも取材をされるような有名な心霊スポットでした。

 僕はこの心霊スポットの名称は知っていましたが、具体的な心霊現象やその由来は知りません。


「不思議な体験しちゃったね」

 大通りに出た後、僕は彼女に言いました。

「なにかあった? ちょっと疲れて寝ちゃってた」

 彼女は寝ていたようです。

 本当かどうかはわかりません。


 その後、彼女を家に送るまでの車の中は会話はありませんでした。


「またね」

 そう言って彼女を送った後、彼女と会うことはありまけんでした。


 坂道での経験が原因だったかはわかりませんが、翌日彼女から別れ話が切り出されました。

 携帯電話で言われて、もう一度会おうと話しましたが断られました。

 共通の知人に聞いたところ、仕事も辞めて別の県へ引っ越してしまったようです。

 携帯電話の番号も変わり、今と違いSNSも発達していない時代のことでアプリを使っての繋がりもなく連絡を取ることもできなくなってしまいました。


 今、どこで何をしているか分かりません。

 あの坂道の出来事がきっかけでなければいいのですが。


 ◻︎


 これが僕の経験した不思議な出来事です。

 細部は変えてありますが、彼女とまたいつかどこかで会えたらと思っています。

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