表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の日々  作者: 山田 弘
88/97

全国編・愛知県①-天むす-

食べるという行為は、生きることとほとんど同じ意味を持つ。

だが「生きるために食べる」だけでは、何かが足りない。

時に、人は食べることで世界を味わい、心を取り戻す。

一皿の料理の中に、季節や土地や人の記憶が詰まっている。


この物語は、そんな“食べること”に人生をかけた男の話である。

名前は——西川内剛。(にしかわうち たけし)


彼にとって料理とは、戦いであり、祈りであり、そして表現だ。

街で香りを嗅げば走り出し、味を想像すれば鍋を振る。

食べたいと思えば、その瞬間からもう料理は始まっている。

彼の休日は、誰よりも熱く、誰よりも美味しい。


その一皿が、彼にとっての人生そのものだから。

休日の午前。

名古屋の街は柔らかい光に包まれ、商店街や路地を通る風がほのかに暖かい。

俺、西川内剛は、今週もまた一週間ぶりの自由を手に入れた。


街を歩いていると、どこからともなく揚げ物の香ばしい匂いが漂ってきた。

「……この匂いは……!」

市場やスーパーの一角には、揚げたての海老天が並び、香ばしい香りとほんのり塩気の匂いが風に乗って鼻腔をくすぐる。

サクサクと揚がった衣の香ばしさ、海老の甘い香り、揚げ油の豊かな香り——五感すべてを刺激され、体の奥から自然と食欲が湧き上がる。


スーパーに立ち寄り、ぷりっとした海老、塩、海苔、炊きたての白米を購入する。

海老天の香ばしさを手で確かめ、米の湯気を感じながら歩く帰り道。

頭の中では、揚げたての海老天が白米に包まれ、口に運ぶ瞬間の音、香り、食感が鮮明に浮かぶ。

今日の戦いの相手は決まった——天むすだ。


家に着くと、手を洗い、エプロンを締める。

炊きたての米を丼に盛り、ほんのり塩を振りかけて味を整える。

海老天を米の中心に置き、手早く形を整える。

海苔を巻くと、香ばしい匂いが一層立ち上がり、視覚でも食欲を刺激する。

湯気の立ち方、香りの立ち方、米の柔らかさ——すべてが俺の五感を支配する。


「ッス……いただきます。」


箸で天むすをすくい、口に運ぶ。

まずサクサクの海老天が歯に触れ、ぷりっとした海老の身が口の中で跳ねる。

衣の香ばしさと、海老の甘み、ほんのり塩気が米と絶妙に絡み合う。

海苔の香ばしさが鼻腔を抜け、揚げたての香りが全身に広がる。


二口、三口と食べ進めるごとに、サクサクとぷりっと、ふっくらのリズムが口の中で奏でられる。

米の温かさ、海老の弾力、衣の香ばしさ、海苔の風味——すべてが絶妙に調和し、体中に幸福感が染み渡る。

箸で持ち上げるたびに、米と天ぷらの熱が手に伝わり、湯気に混じる香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。


最後の一口をかき込むと、口の中に香ばしさと海老の甘みが長く残り、舌の奥まで海の香りが染み込む。

ふっくらした米の余韻と海苔の香ばしさが、まだ五感に余韻として残る。

窓の外では穏やかな光が街並みに降り注ぎ、遠くの商店街に海からの風が揺れる。

余韻に浸りながら、自然と次の料理のことを考え始める。


「ッス……ご馳走様でした。」


——さぁ、次は何を食べようか。

閲覧ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ