↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の日々  作者: 山田 弘
PR
80/97

全国編・山梨県①-ほうとう-

食べるという行為は、生きることとほとんど同じ意味を持つ。

だが「生きるために食べる」だけでは、何かが足りない。

時に、人は食べることで世界を味わい、心を取り戻す。

一皿の料理の中に、季節や土地や人の記憶が詰まっている。


この物語は、そんな“食べること”に人生をかけた男の話である。

名前は——西川内剛。(にしかわうち たけし)


彼にとって料理とは、戦いであり、祈りであり、そして表現だ。

街で香りを嗅げば走り出し、味を想像すれば鍋を振る。

食べたいと思えば、その瞬間からもう料理は始まっている。

彼の休日は、誰よりも熱く、誰よりも美味しい。


その一皿が、彼にとっての人生そのものだから。

休日の午前。

山梨の街は柔らかく光を受け、木造の商店街には山の香りと新鮮な野菜の匂いが混ざり合う。


俺、西川内剛は、今週もまた一週間ぶりの自由を手に入れた。


商店街を歩くと、八百屋からはかぼちゃや人参の土の香りが漂い、味噌屋の店先からは熟成された味噌の香りがふわりと立つ。

鼻腔をくすぐる香りの波に、自然と足が速まる。


「さぁ、今日は何を食べようか。」


目に留まったのは、地元の家庭料理として知られる ほうとう。

かぼちゃや人参、白菜、ネギ、きのこ……色とりどりの野菜が味噌ベースの鍋でぐつぐつと煮える姿が頭の中に浮かぶ。

その瞬間、今日の戦いの相手は決まった。


スーパーで材料を揃える。

太くてもちもちしたほうとうの麺、かぼちゃ、白菜、ねぎ、きのこ、味噌。

鍋を買うなら厚手で深いものを選ぶ。

帰り道、頭の中で鍋の湯気が立ち上る情景を描きながら歩く。


家に着くと、手を洗い、エプロンを締める。

鍋に水を張り、昆布を入れて火にかける。

野菜を丁寧に切り、鍋に投入。

火が通ると、湯気と共に野菜の甘み、味噌の香りが部屋中に広がる。

ジュワリと野菜から水分が染み出し、味噌の香ばしさが鼻腔をくすぐる。


ほうとうの麺を鍋に入れると、太くもちもちした麺が湯気の中で踊るように広がる。

麺に火が通ると、鍋の中は野菜と味噌の香りが混ざり合い、豊かな湯気が立ち上る。

厚手の鍋の縁からはジュッと音が響き、熱気が手に伝わる。


「ッス……いただきます。」


箸で麺と野菜をすくい、口に運ぶ。

もっちりとした麺が舌を撫で、野菜は柔らかく甘みが口いっぱいに広がる。

味噌の香ばしさと旨味が絡み合い、口の中で温かさがじんわりと広がる。

湯気を吸い込み、香りとともに熱さが喉を通る感覚が心地いい。


二口、三口……箸を進めるたびに、味噌の奥深い甘みと野菜の自然な旨味、麺のもちもち感が口の中で調和する。

鍋の中の湯気と香りがまだ立ち上り、熱気が体の芯まで届く。

口の中に残る余韻が、山梨の静かな街並みと山の香りを思い出させる。


食べ終える頃には、温かさと満足感が体中に広がり、自然と次の料理のことを考え始める。


「ッス……ご馳走様でした。」


——さぁ、次は何を食べようか。

閲覧ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。