↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の日々  作者: 山田 弘
PR
72/97

全国編・新潟県①-へぎそば-

食べるという行為は、生きることとほとんど同じ意味を持つ。

だが「生きるために食べる」だけでは、何かが足りない。

時に、人は食べることで世界を味わい、心を取り戻す。

一皿の料理の中に、季節や土地や人の記憶が詰まっている。


この物語は、そんな“食べること”に人生をかけた男の話である。

名前は——西川内剛。(にしかわうち たけし)


彼にとって料理とは、戦いであり、祈りであり、そして表現だ。

街で香りを嗅げば走り出し、味を想像すれば鍋を振る。

食べたいと思えば、その瞬間からもう料理は始まっている。

彼の休日は、誰よりも熱く、誰よりも美味しい。


その一皿が、彼にとっての人生そのものだから。

晴れた休日の午前。

街は穏やかに輝き、青空の下で人の流れがゆるやかに動いている。


俺、西川内剛は、今週もまた一週間ぶりの自由を手に入れた。


小千谷の商店街を歩く。

蕎麦粉の香り、干物や醤油の香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

湯気の立つ小さな蕎麦屋の前を通ると、ほのかに布海苔の磯の香りも漂ってきた。

思わず足を速める。体が自然に反応する。


「さぁ、今日は何を食べようか。」


店頭に並ぶへぎそばの見本。

つるつるとした麺に布海苔が練り込まれ、緑がかった光沢を放っている。

香りだけで、喉の奥が刺激され、腹の虫が鳴る。


スーパーで材料を揃える。

そば粉、布海苔、つゆの醤油やみりん、刻みネギ、わさび。

手に取るたびに、蕎麦の香ばしい粉の匂いが微かに漂う。

家に帰り、手を洗い、エプロンを締め、鍋に水をたっぷり注ぐ。


まず布海苔を水で溶き、そば粉と合わせる。

茹でるときには、麺が踊るように鍋に投入し、時折かき混ぜる。

湯気の立ち上る瞬間、布海苔の磯の香りが立ち上り、鼻を抜けていく。

茹で上がった麺は冷水で一気に締め、表面はツルツル、舌触りは滑らか。


丼に盛り付け、刻みネギとわさびを添える。

つゆをかけ、香りを嗅ぐ。

雑味はない、布海苔と蕎麦、つゆの香りだけが調和して漂う。


「ッス……いただきます。」


口に運ぶと、つるりとした舌触りの後、布海苔の磯の風味と蕎麦の香ばしさが口の中で混ざり合う。

つゆの甘みと旨味が麺を包み込み、咀嚼するごとに香りが鼻に抜ける。

喉を滑り落ちる瞬間、体全体に温かい満足感が広がる。


二口、三口……手元の麺を食べ進めるごとに、布海苔の独特な香りと蕎麦の食感が脳裏に刻まれる。

静かで深い充足感。

窓の外、小千谷の街並みに差し込む光が柔らかく道を照らす。


「ッス……ご馳走様でした。」


——さぁ、次は何を食べようか。

閲覧ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。