↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食の日々  作者: 山田 弘
PR
70/97

全国編・神奈川県①-焼売-

食べるという行為は、生きることとほとんど同じ意味を持つ。

だが「生きるために食べる」だけでは、何かが足りない。

時に、人は食べることで世界を味わい、心を取り戻す。

一皿の料理の中に、季節や土地や人の記憶が詰まっている。


この物語は、そんな“食べること”に人生をかけた男の話である。

名前は——西川内剛。(にしかわうち たけし)


彼にとって料理とは、戦いであり、祈りであり、そして表現だ。

街で香りを嗅げば走り出し、味を想像すれば鍋を振る。

食べたいと思えば、その瞬間からもう料理は始まっている。

彼の休日は、誰よりも熱く、誰よりも美味しい。


その一皿が、彼にとっての人生そのものだから。

晴れた休日の午前。

街は穏やかに輝き、青空の下で人の流れがゆるやかに動いている。


俺、西川内剛は、今週もまた一週間ぶりの自由を手に入れた。


中華街の路地を歩く。

胡麻油の香ばしい匂い、ニンニクや生姜の鮮烈な香り、蒸し物の湯気の匂いが鼻の奥をくすぐる。

小さな屋台から漂う肉まんや焼き小籠包の香りも混ざり、思わず歩を速める。

目の前の小さな蒸し器から立ち上る湯気が、街全体に香りの波を送っているかのようだ。


「さぁ、今日は何を食べようか。」


蒸し器の中、シュウマイがふっくらと膨らむ。

皮が薄く光り、肉汁が小さな泡を作るたびに香ばしい匂いが立ち上る。

店先で揚がる焼き小籠包の香ばしさ、蒸気の温かさ、五感が一度に刺激され、胸が高鳴る。


スーパーへ向かう。

豚ひき肉は鮮やかなピンク、エビは透き通るような色合い、玉ねぎは瑞々しい。

シュウマイの皮、紹興酒、しょうが、醤油をカゴに入れる。

手に取るたびに香りが微かに漂い、思わず深呼吸してしまう。

家に着くと、まず手を洗い、エプロンを締め、包丁を手に取った。


玉ねぎを細かくみじん切りにし、エビを刻む。

豚ひき肉と調味料をボウルに入れ、丁寧に混ぜる。

練るたびに香りが手に移り、思わず顔を近づけて深呼吸する。

しょうがの鋭い香りが鼻をくすぐり、食欲をさらに刺激する。


皮で包む作業は、集中と緊張が交錯する。

小さな丸に整え、蒸し器に並べると、すでに香りが部屋に広がった。

湯気の中で少しずつ膨らむシュウマイの様子を見つめ、手元に残る熱気を感じる。

ジュッと立ち上る蒸気が、香りと共に五感を満たしていく。


「ッス……いただきます。」


一口頬張る。

ふっくらとした皮の中から、肉汁が溢れ、豚肉とエビの旨味が口の中に広がる。

玉ねぎの甘み、しょうがの風味、紹興酒の香りが一体となり、舌と鼻を満たす。

湯気の温かさが鼻腔を抜け、体全体を優しく包み込む。

熱い香り、味わい、食感——五感が揃って、初めて完璧な一口になる。


二口、三口と食べ進める。

蒸籠の中のシュウマイはまだ熱々で、皮の艶、肉汁の輝き、香りの余韻が揺れ続ける。

箸を置くたび、包丁で切るパチッという音や、蒸し器の湯気の音までが記憶に刻まれる。


「……これだな。」


食べ終えた後も、香ばしい香りと肉汁の余韻が部屋に漂う。

窓の外、賑やかな中華街の通りには人々が行き交い、屋台の香りと活気が混ざり合っている。

静かな満足感に浸りながら、自然と次の料理のことを考え始めた。


「ッス……ご馳走様でした。」


——さぁ、次は何を食べようか。

閲覧ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。