第七話 コントロールしなさい
特訓が終わった後、僕はメルの家に来ていた。
現在メルはシャワーを浴びており、僕は一人彼女の部屋にいた。未経験であるがゆえに、恥ずかしくて少しもじもじしてしまう。
どうしてこうなった...!?
なぜメルの家にいるのか?その理由は、僕とメルとの特訓のせいであった。
「さて、メル。君は魔法使いだ。普段なら、君はどうする?遠距離で戦う?それともあえて近距離で戦ってみる?」
木々に囲まれている中、ナイフを構えながら、俺は静かに質問した。
幸いここは自分の家よりもかなり離れているため、最悪なことが起ころうとも、何とか対処ができる。家が壊れるなんてことは、おそらくないだろう。
「それを踏まえて、この戦いに集中してほしい。全力で」
「わかった」
直後、雷魔法が俺を取り囲んだ。かなりの高威力であり、当たれば確実に大ダメージが入るような、そんな威力である。
しょっぱなから飛ばしてんねぇ。いいじゃん。
うれしさで口角が上がりつつも、俺は一つ一つ丁寧に雷魔法をよけていく。メルは苦し紛れであらゆる属性魔法を放つのだが、しょせんは苦し紛れ。乱発した魔法に精密さなんてものはなく、先ほどよりも軽々とよけられるよういなった。
「メル。お前、近距離が苦手だな?」
そういったはいいものの、どうせ近くによればシールドを張る。前回は魔力の乱れを見つけたからよかったが、今回は違う。おそらくメルは全方面に注意を払っているはずだ。
なら...。正面突破をするまでだ。
覚悟を決めた俺は思い切り踏み込み、跳躍した。あまりにも早すぎるスピードに、メルのシールド展開が間に合うはずもなく、俺の右手はメルの左肩に触れていた。
「隙ありだな」
「やっぱり、ティーノは強いね。私よりも......」
メルのその落ち込む姿に、僕は既視感を抱いた。
ああ。そうか。似てるんだ。メルと僕は、一緒なんだ。
気が付いた。彼女は、弱かった時の自分に似ているのだ。何もできなかった自分に。すべてが人並以下で、得意だといい張れるところは、あくまでBクラスの基準で図ったもの。Aクラスではそんな特技なんてかすんで見えてしまう。
「違う」
救ってあげたい。そう思った時には、僕の口は動いていた。
何してるんだ...。僕は。
それでも、僕の意思とは逆らって口は動くのをやめなかった。
「僕は君よりも弱い」
「そんなはずない...!だってさっきも...」
「あれは近接戦闘にまでもっていっただけ。きっと魔法勝負なら、君に負けるだろうね。僕はさ、オールラウンダーなんだよ。いろんなことが中途半端にできるだけ。メルみたいなことはできないんだよ。だから、君がうらやましい。そんなに魔法が使える..........、君が」
目を細めながら、僕は彼女のほうを見た。彼女はそうなの?と不思議そうにこちらを見ていた。それもそうか。
自分より強い人物が、君より魔法が弱いなんて言われたら、そりゃ意外だと思うか。
「だからさ、そんなに落ち込まなくたっていいんだよ。君には、君にしかできないことがあるんだから」
「..........ありがとう」
「っ....!!」
メルが頬を赤らめながら感謝の言葉を言うせいで、こちらまで赤くなってしまう。
ああだめだ!!コントロールしなさい!!感情をコントロールせねば!
「じゃあ、戻ろうか」
思い切って、僕は彼女に手を伸ばすと、メルは微笑して僕の手を取った。
うれしかった。だけどそんな嬉しさも、家に帰るときにはとっくに消えていた。あれほどうれしかったこの喜びは、絶望という感情に塗り替えられていたからだ。
燃え広がる炎を見て、膝から崩れ落ちる。
「あぁ。なんで....。僕の家がぁ.......!」
僕の家は、メルがやけくそで放った炎魔法によって燃えていた。
「ご、ごめんなさい!私のせいで...」
「い...いいんだよ。す、すぐ....すぐ直すからさ」
ハハハ。と、乾いた笑みを浮かべながら僕はメルを安心させようとした。
しかしかえって逆効果だったらしく、余計にメルから心配されてしまった。
「ねぇ...」
「ん?どうしたの?」
メルが、頬を赤らめながら僕に話しかける。よほど恥ずかしいことを言うのか、人差し指と人差し指を何回も軽く小突いている。
少しして、メルは意を決したように、僕にとある提案をしてきた。
「わ、私の家...にくる?」
...........。?????
突然の出来事に、僕の脳みそは労働を拒否し、僕はえ?と声を漏らしてしまった。
「ええええぇぇっ!!!???」
しかしそれでとどまるわけもなく、大声で僕は叫んだのであった。
そして、家を燃やした彼女が僕を家に誘ってきて今これ。である。
僕の家がなくなってしまった以上、これからはメルの家で暮らさなければならないのである。それはつまり、メルと同棲をするということ。そう思うと、一気に顔が熱くなっていく。
「僕はこういうのに弱すぎるんだよなぁ......」
いくら実戦などが強かろうとも、僕は恋愛系統は弱いのだ。少しでもボディタッチされると失神するぐらいに。
だからこそ、あまりボディタッチはしてこないほうが、こっちとしては楽ではある。
「おまたせ」
そう言って、メルが部屋に入ってきたのだが......!?
「ちょっと、メル!!ふ、服!!服を着てくれぇぇぇ!!!」
僕の視界には、体にタオルを巻いているメルの姿があった。あまりにも強すぎる刺激の強さに、僕はメルを横目に失神してしまった。
最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますので、ブックマークをして待っていただけると嬉しいです。
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