第六話 色目を使わないで
「優勝はティーノ君のチームです」
あたり一帯が騒然とする。ありえない。何が起こった。と、各々が口にしていた。
それは仕方のないことであった。なにせたった一つの、ちょっそ変わった魔石が、数十個の魔石よりも価値を上回っているのだから。そんなこと、だれもが納得できるはずはなかった。
「ティーノ君、これはどこで?」
「ダンジョンの10階層のうちの一階層目。廊下の端に隠し通路を見つけて、長い階段を下りたらAランクの魔物であるベル・ケルピーに出会ったんです」
淡々と、真実のみを話していく。
「なるほど...。どうやら、かなり運がよかったみたいですね」
「本当に」
実際は実力で簡単だけどなあ...。しかも負けても僕が戦えば勝てたし。何が運だよ。僕たちの実力を否定したいだけじゃないの?と、心の中で先生の発言に突っかかった。
そして、今回の実践訓練はこれにて終了した。
「失礼します。学園長」
実戦訓練が終わって落ち着いたころ、こんこんとノックし、学園長室にゼーニスが入ってきた。彼女は、部屋の両端に飾られてあるたくさんの本に目もくれず、一直線に学園長の前にまで歩いた。
「どうしたのだね、ゼーニス先生」
そういいながら、長い白髭を整える。
「学園長。2つほど報告がありまして...........。まず、近頃学園の近くで不審者を見たという報告がありました」
「それが何か問題でもあるのかね?」
怪訝な目つきで、学園長はゼーニスを見つめた。
「それが、凶器を持ち歩いていたそうなんです。それに.........、あのマークが入ったアームバンドをつけていたと」
「シトリー・デクテットか」
シトリー・デクテット。その組織の名前を知らないものは存在しない。なんせ、それほどの爪痕を過去に残したからだ。
時は十三年前。ティーノたちがまだ5歳ごろの時だった。この学園一帯が爆弾により、火の海となった。死者はおよそ15万人ほどの大災害である。のちにこの出来事を、『反逆の咆哮』と呼ばれるようになった。
組織の目的はただ一つ。人間を皆殺しにし、ありのままの世界を取り戻すことである。そのため、シトリー・デクテットのマークには人を象徴するものは書かれておらず、自然を現した模様になっている。
「なかなか厄介なことになってきたな。この件は、近いうちに対抗策を打つ。そういえばゼーニス先生、もう一つは?」
「Bクラスにいる、ティーノ君のことで少し相談が」
「ほう。最近学園で噂になっている、あのティーノ君かね」
学園長の眉が、ピクリと動く。
「今の彼は、どうにもBクラスじゃ収まらないようほど強いんです。学園長も、トーナメント戦の時の彼を見たでしょう?」
「ああ。すごかったよ。なにせ、左腕を使わずにあれほどの芸当ができるなんて。まさにAクラスにふさわしいと、ちょうど私も思っていたころだ。どうですかねゼーニス先生、今度行う、特別試験の結果次第で彼をAクラスにあげてみませんか?」
その言葉を聞いた一人のAクラス生徒は、その後の内容を一切聞こうとせず、歯ぎしりをして廊下を走った。
くそっ。憎たらしい、ティーノベルへデス!すんなりAクラスに入りやがって...。気に食わない!
こみあげてくる憎悪を抑える気もなく、女子生徒はある案を思いつくとにやりと笑った。
翌日の昼過ぎ。大きなあくびをしつつ、僕はのんびりと支度を始める。今日は学園はやっておらず、特に朝に起きる必要はなかったのだ。
ありがたき休日!これでようやくのんびりできるぞー!
この一週間、トーナメント戦で優勝したり、ダンジョンに行き実践訓練をしたりと、何かと忙しい一週間であった。故に、この一週間は僕にとって一番身に染みる一週間なのである。
うれしさで、思わず腹筋を50回ほどする。本来ならまだやらない時間帯のせいか、少し新鮮な感じがした。
「ティーノ......?」
その時だった。一人の女子が、僕の横にいた。
しまった!腹筋に夢中になりすぎていた!
と、過去の自分を責めて後悔した。なんせ上裸なのだ。彼女でもない人に上裸を見せる。それはとても破廉恥なことであった。それに気が付くと、とてもじゃないがまともに生きていける気がしなかった。
「め....メル。ど、どddどどっどどどうしたののの????」
「え、えっと、ティーノ君強いから、特訓してもらおうかな...って、大丈夫?」
あまりにも焦っているせいで、まともにしゃべることができない。それに顔がすごくほてっていて、貧血を起こしてぶっ倒れそうだった。
はやく立て直せ!戦況はますます悪くなっていく一方だ!!
深く深呼吸をし、なんとか戦況を立て直すと、震えは収まってまともに会話できるようになっていた。
「だ、大丈夫!それで、どうしたの?」
「聞いてなかったんだ」
「ごめん」
「いいよ。それで、ティーノ君に特訓してもらいたいんだけど...。いいかな?」
メルが僕の顔を除いたかと思えば、上目遣いでこちらを見てきた。かわいらしいその表情のせいで、断るという選択肢はなくなってしまった。
「わかった。特訓しよう!」
こうして、せっかくの休日はメルとの特訓によって消費されてしまうのであった。
最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますので、ブックマークをして待っていただけると嬉しいです。
これからもこのシリーズをよろしくお願いします!