第五話 馬刺しってやつ?
「ベル・ケルピーを倒すって、君は正気なの!?あんなの、勝てるわけがないじゃない!」
彼女の発言は正しかった。なにせ、Aランクの魔物というのは、本来Bクラスの生徒単騎では到底勝てるわけない魔物なのだ。故に、4人だけでは少々心苦しいのである。
「ああ。確かに一人で討伐するには無理かもな。ただ...」
ベルラの心配を吹き飛ばすように笑い、俺は三人のほうへ振り返って自信に満ちた声色で言った。
「ここには4人いるんだ。きっと勝てるさ。.........それでなんだが、みんなは何が得意だ?」
「俺は爪状の武器を使うから、近接戦闘向けか」
「私は魔法が得意。ヒールもできるよ」
「剣が得意です!」
各々の得意なものを聞き、俺は自分がやるべき役割を理解した。そう、タンクである。
本来のダンジョン攻略というのは、アタッカー、ヒーラー、タンク、ウィザードの合計4人のパーティを組んで挑むものである。
そして今回はアタッカーが二人いるかわり、メルがヒーラーとウィザードの両方の役割をこなすことができているため、消去法で、今回の俺の役割はタンクなのだ。つまり、俺は攻撃を防ぐ掛りである。それに魔物の意識を寄せなければならないので、メルの次にやることが多い役割だ。
やったことはないが、やれるだけやってみるか。
「俺がタンクをする。お前たちは俺の後ろにいて、隙ができたら攻撃を入れてくれ.............。じゃあ、行くぞ!」
ケルピーが、勢いよくこちらに突っ走ってくる。そこで俺は皆の前へ出ると、ケルピーの攻撃をはじいた。
隙を見つけた俺は、すぐさま足に力を入れ、筋肉が負荷に耐えられなくなるほど足に力を籠める。そうしてできた足は、まるで押されたばねのようで、勢いよく飛び出した。
俺の顔とケルピーの顔が衝突する直前、にやりと笑って、俺は体をどけた。そして俺の後ろにいたのは、攻撃態勢をとっているキィローとベルラであった。突然の出来事にケルピーは対応しようとするが、顔面に雷魔法が飛来する。
「こいつで、終わりだぜ!」
「このまま貫かれろ!」
魔法により隙ができたケルピーには、もう抵抗できる時間は残っておらず、あとは斬られるだけであった。そしてベルラの剣は心臓を貫き、キィローの鉤爪は足を切断した。まるで馬刺しのようである。
どさっ。とケルピーが倒れると肺のようにして姿は消え、代わりにきれいな魔石が落ちていた。しかしその魔石は先ほど見せてもらったものとは大きく見た目が違っており、青がかった紫の色ではなく空色をしていた。
それを拾って、まじまじと見つめる。
「そういえばさ、ティーノってどうしてこの場所を知ってるの?」
「ああそれは..........。僕は何度もこのダンジョンに来たことがあるんだ」
僕の発言に、皆は驚愕した。それもそうだろう。なにせ、このダンジョンはかなりの高難易度ダンジョンであるからだ。
僕がまだ弱かったころ。実戦経験が少ないことに気が付いた僕は、ふらふらと夜で一人歩いていた。どこまで行ったか分からなくなって、頭が真っ白になってた時。偶然、このダンジョンを見つけた。
どんなに怖くても、どんなに痛くても。少ない魔力で回復魔法を使って、勇気を奮い立たせて挑んだ。
ダンジョンというのは、コアが破壊されない限り魔物は永遠にわくものなので、それを利用して何度も弱い敵に挑み、余裕で倒せるようになったら次へ進む。といった作業を繰り返していた。
そしてしばらく潜り続けて、僕はこの隠し通路を見つけた。降りるなりケルピーにであったけれど、一瞬で倒せるようになっていた。
一度倒したものには興味がない。だから、今回はあえて3人に任せてみることにしたのだ。
「こんな難易度のダンジョンを.........。本当にすごい」
「いや、ちょっと待って。さすがにうそでしょ。トーナメント戦で優勝したといっても、相手はさっきのケルピーよ?いくらなんでもありえない。嘘をつくな!」
「....。嘘ではないんだけれども....。まあ、いつか僕の実力を認めてもらえるよう頑張るよ」
この時、すでに試験時間が近づいてきていることに気が付き、すぐさま撤退した。
戻ると、ほとんどの生徒が戻ってきているようで、僕たちは一番最後だった。
「それでは、皆さんが集めたものをここに」
各チーム、前にいた順に獲得したものを、先生の隣に置いていく。どれも袋はパンパンになっており、よほどの魔物を倒したのだと推測できた。そんな中僕たちのチームは魔石一個。負けは決まっていた。
はぁとため息をついていると僕のチームの番になったため、僕は前に出ると、一つの魔石を丁寧においた。それを見て、生徒たちは笑っていた。しかし、笑うどころか顔を引きつらせている人物が一人いた。そう、先生である。
先生は魔石を見るなりそっとつまむと、隅々まで観察し始めた。
しばらくじっと見ており、ようやく終わったかと思えば声を震わせ、意外なことを言った。
「優勝は、ティーノ君たちのチームです.......。」
瞬間、生徒たちの驚愕の声が響き渡った。
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