第二話 Bクラスの魔法使い
それから決勝までの道は順調だった。試合開始早々に下級炎魔法を放って、場外に突き落とす。Cクラスでも撃てる下級炎魔法でやられていくところを見ていると、なぜこの程度でやられてしまうのか。と僕は疑問に思うのと同時に、ショックだった。だけど、次の試合はそんな簡単にはいかない。なにせ次の試合の相手は魔法を多彩に使う生徒、メルだからである。
試合が始まるで、僕は待合室にいた。観葉植物やマジックアイテムの模造品などが並べられているが、正直興味はわかなかった。僕の興味は、メルとの戦いだけであった。
『さあさあ皆さん、長らくお持たせしました!!本日のトーナメントのメイディシュと言っても過言ではない、決勝戦の始まりです!!』
壁のほうから、エコーのかかった審判の声が聞こえた。声のした方向は、もちろん会場である。僕は静かに腰を上げ、コキコキと指を鳴らし始めた。
「さて、Bクラス最強の魔法使いはどれほど強いのか、楽しみだな」
そう独り言をつぶやいていた僕の口角は、斜め三十度ほど上がっていた。それに気づき、思わずスッと表情を戻した後、僕は会場に姿を現した。
『今大会のダークホース、ティーノ・ベルへデスくん!!』
審判の紹介に少し照れつつ、僕は壇上に上がった。もうすでにメルは紹介されており、壇上で僕をじっと見つめていた。その眼には一見なにも宿ってないように見えるが、奥深くで闘争心を静かに燃やしているのが僕にはわかった。
『それでは始めましょう!!』
両者ともに武器を構える。魔法使いのメルは案の定杖を取り出し、僕はナイフを取り出した。
僕は過去、剣使いだった。本来なら片腕で使うものだからもってこいだと思われがちである。実際、僕だってトレーニングする前はそう思っていた。しかし、剣にも様々な攻撃方法がある。僕は剣のアドバンテージを最大限生活かせなかったのだ。そんな中僕が見つけた武器が、ナイフだった。
とはいえ、僕は基本ナイフは出さない。拳のほうがやりやすいからだ。だけど、ナイフを出さないといけない。そう思った。
メルは余裕そうに立っていた。一見何かあるように思えたが、あまりにもその構えは隙がありすぎた。
「何もする気がないなら、俺から行くぞ」
瞬間、俺は思い切り地を蹴ると、そのまま彼女の距離を一気に詰めてナイフを振りかざした。思い切りやったはずだが、ナイフから伝わる感触は、まるで金属を相手にしてるかのようだった。
実際その通りだった。俺とメルの間には強力なシールドが張られており、ナイフはそのバリアに刃をぶつけていた。
「今度は、こっちから行かせていただきます」
俺がバリアを破壊しようとしていた時だった。メルは杖を俺に向けると、光線弾のようなものを発砲した。俺はそれを、紙一重で避ける。
「防御魔法に雷魔法か。やはり簡単にはいかせてくれないってことだ」
独り言をつぶやきながら、俺は展開されているシールドをじっと観察していた。所謂分析である。たとえどんなに凄腕だろうと、必ず弱点が存在する。そこを見極めることこそが、俺が勝つためのキーポイントである。
しかし、考えている間もメルの魔法攻撃は止まない。紙一重で何とかよけれているが、このまま耐久戦になってもらちが明かない。そう判断した俺は、攻撃魔法をナイフでさばきつつ接近していく。その差は、歩数にして約30歩ほどであった。されど、俺が距離を詰めるにしてはあまりにも短すぎる距離だった。
「悪いなメル。どんなに数で押し切ろうと、俺はこんなんじゃあ死にも、止められもしないぞ」
ついに俺はメルとの距離を詰めることに成功した。だが、それでも足りない。なんせ最後の砦である防御魔法が待ち構えているのだから。それでも俺は、真正面からもういちど、思い切りそのナイフを振りかぶる。その瞬間、魔力が真正面に集中し、高度が増強した。
それを見越した俺は音速越えの速度でメルの背後をとると、ナイフで防御魔法を破壊した。防御んか法の断片が散ってゆく中、メルが目を丸くしながら俺に尋ねる。
「どうして...。私の防御魔法が」
「簡単だ。人ってのはな、自分を殺す可能性がある人物が近づけば近づくほど、生存本能が働くもんなんだよ。つまり、お前はその生存本能により無意識に、俺のいる方向に防御を固めたんだよ。そしてそれが...」
にやりと笑い、俺はメルのほうに手をかざす。すると、メルは衝撃波を食らったかのように後方に吹っ飛んでいき、無事場外と判定された。
パンッ。と手を払う。
「それが、お前の敗因だ」
こうして俺はBクラスのトーナメントに優勝し、Bクラスの中で最強であることを証明した。
試合が終わった後、私ことメルは待合室にいた。特に用事があるわけじゃない。ただ、一人になるには丁度よかったのだ。
あの戦いは、私の完敗だった。それは観客からも、自分から見ても明らかだった。圧倒的な実力に、鋭い洞察力。たとえ再度戦ったとしても、必ず私が負けるだろう。
なぜなら彼は、一度も左腕を使っていなかったからだ。そう、右腕のみで私の攻撃をさばいた。左側にも攻撃は来ていた。それなのに、難なくナイフでさばいたのだ。片腕のみでそんな芸当を平然とやってのけるところが、どこか常軌を逸していた。
「ねぇ...」
目の前にいる空気に、私は話しかける。
「ティーノ、あなたは一体何者なの?」
と。
最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますので、ブックマークをして待っていただけると嬉しいです。
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