第一話 Bクラスの骨折男
ある日のことだった。その日は雪が降った後日のことで、気温が上がららないままのせいか道という道は路面凍結しており、少しでも気が緩めば転倒してしまいそうだった。そんな日に、僕ことティーノは外に出た。
理由は簡単。ただの現実逃避である。
僕は至上最高峰の学園であるハイリアス学園へ入学し、どのくらいの強さなのかを競うランク付けで下から二番目のBクラスの烙印を押された。別に最底辺のCクラスでないだけましだが、僕の予想よりかは下だったため、多少傷ついた。
そしてBクラス同士で行う模擬戦では結果最下位。Bクラスではあれど、僕の実力はCクラスであった。あまりにも弱すぎる。そんな現実から逃れるために、僕はここへ来ていた。
石と木でできた一軒家が何軒もたたずむこの道は、例の学園である。資金を多くつぎ込まれたせいでたいそう大きく作られたその建造物を見るだけで、僕は胃がもたれそうだった。
剣術も魔法すらまともにできない僕が、あそこの学園にいる。
「くそっ」
うっぷんを晴らすかの如く、道端にあった雪玉を蹴飛ばそうとした時だった。右足の設置感覚が急になくなったのである。この時、僕は右足を蹴り上げながら体制を崩していた。そう、滑ったのである。
決して油断していたわけじゃない。なんなら誰よりも細心の注意を払っていたはずである。だけど、雪玉をける際に冷静さを怠ってしまったのである。そのせいで、どんどん頭と凍った地面との距離が近くなっていく。
僕はとっさに体の向きを変え、左腕で衝撃を和らげた。こんな判断ができたのは、ハイリアス学園のおかげだとわかると、意外に役に立つことってあるんだなと心の中だけで思った。
その日からだった。左腕を曲げようとすると激痛が走るようになり、まともに左腕を動かすのが困難になった。
次の日信頼できる叔父に診てもらい、結果骨折しているということが分かった。しかもそれが腕を曲げたり回したりするときに使う骨だったため、実質的に一か月ほど左腕を使えない状況に陥ってしまった。
「それじゃあ一か月後、クラス内でトーナメント戦を再度行うからなー。みんな頑張れよー」
どんなにけがをしていようと、世の中は僕に合わせてはくれない。その証に、僕の腕が完治するその日にトーナメント戦が設けられた。絶望だった。せっかく最下位からのし上がれると思っていたのに。と、歯ぎしりをする。
生徒一同、布で固定された僕の左腕を見て笑っていた。誰もが勝ち目なんてないと、言葉では言わないがそう目で言っていた。
悔しい。そんな感情が胸を埋め尽くしていく。その気持ちを僕は行動力に変えた。
それからは地獄のトレーニングの日々だった。一人暮らしの家に帰っては腕立て、腹筋。ランニング。そして我流の魔法に武術。ハイリアス学園で習ったことやこれまでに見てきたもの。そのすべてを思い出しては、再現できそうなものはすべて再現しようと努力した。とはいえほとんどは左腕ありきの技ばかりであきらめかけたが、自己流で左腕が使えないことによるロスを軽減して見せた。
「絶対に僕はBクラスの中で一位になって、みんなを見返してやるんだ!!」
そんな一心でトレーニングし続けて一か月後の早朝。俺は自分の部屋にあった鏡で自分を見つめた。そこに映っていたのは、覚悟を決めた一人の男だった。
「あれほど鍛えたんだ。この戦いは、俺がかつ。」
そういって僕は、力強く玄関から飛び出し、学園へ向かうことにした。
トーナメント会場に着いた後、すぐに受付を済ませた。僕は第4回戦に戦うらしいので、それまでの間僕はのんびりと会場外をうろついていた。会場内もそうだったが、多くの人がいた。それも生徒だけではない。今回のトーナメント戦には生徒の保護者も観戦してよいといわれていたためだろう。外にいた人たちの7割ほどが保護者だった。
まだ僕の番じゃないのかぁ。早くしてくれないかなー。まだかまだかとステップを刻んでいた時だった。僕の不注意で、一人の女子生徒とぶつかった。その女子生徒はぶつけた箇所であろう肩をさすっていた。
「ごめん!前が見えてなくて....。けがはない?」
そう声をかけると、女子生徒は曇らせた表情のままこっちを少しにらんだ。
「...サイテー」
吐き捨てるように愚痴をはくと、女子生徒はどこかへ消えてしまった。
あの人、どこかで見たような....。雪のような白い髪の毛と青空色の瞳という身体的特徴的を頼りに、僕は記憶の奥底から彼女に関する記憶を探し出す。そしてしばらくした末に、僕はようやく彼女のことを思い出した。
Bクラス2位のメル。得意魔法は回復魔法だったけ。
『第三回戦で戦う生徒たちの入場です!』
会場内から、実況を務めている副学園長のニュル先生の声が響く。
外をふらつくことに飽きた僕は、なんとなくその会場内に足を運んだ。
会場内は大衆による歓声で満ちていた。せっかく演奏してくれている入場BGMも全く聞こえず、僕はかわいそうに思った。
そんな風に思っていると、二人の生徒が会場内に入った。一人はBクラス35位の男、エミール・エプティ。そしてもう一人は、先ほど僕とぶつかった女子生徒のメルだった。Bクラス2位。その戦いっぷりを目に焼き付けるべく、僕はその戦いに集中しようとする。
「よぉティーノ、負ける準備はできてるかぁ~?」
一人の男が僕の隣に来るなり、そう煽り文句を言った。しかしその男には認識がないため、特に気にすることもなく試合観戦に移る。
僕のその態度が許せなかったのか、軽く舌打ちをして僕の耳に口を近づけた。
「お前、けがしてたんだよなぁ?もとから弱ぇのに、もっと弱くなっちまったんじゃあお前はCクラス同然かもな」
男にとっては何気ない挑発が、僕の堪忍袋の緒をちぎった。
「あ!?僕はねぇ、この一か月の間にずっとトレーニングしてたの!!腕立てだって、戦術だって。それに魔法も。全部全部みんなより劣ってたけど頑張ったの!おかげで腕にも筋肉がついてきたし!見てわかんないの??テキトーなことばっか言って、おれつぇぇぇぇぇムーブでもしたいんですか!????それで僕をあおったんですか!?気持ち悪いなぁ!!だからBクラスにいるんだよ!大して実力もないくせに煽ってこないでよ!!本当に強いんだったらなんも言わずに僕と勝負して、堂々と勝ってよ!!」
間髪入れずに言葉で男をタコ殴りにした。
やられたら僕の気が済むまで、または男が謝るまでやり返す。それが僕の生き方である。
男は自身のプライドを傷つけられたせいか、歯ぎしりをして俺はイグル。覚えてろよ。とだけ言って立ち去って行った。
その時、僕は何か面倒ごとがあったときはこうやってまくし立てればよい。ということに気が付いた。
「これでやっと試合が見れるよ」
そういってメルを探し始めたが、どこにもいなかった。なんなら、先ほどまでいた対戦相手もおらず、その戦いが終わってしまったことに気が付いた。それと同時に、もうすぐ僕自身の試合が始まってしまうことを思い出し、命がけで走った結果、ギリギリではあったが駆け込みに成功した。
『そして、お次はBクラスで最弱と言われているあの生徒!左腕の骨折により、一か月間左腕が使えない間何をしていたのか!?その答えを結果で教えていただきましょう!ティーノ・ベルへデス選手!!』
その後に湧き上がる声援に応えるためにも、息を切らしながら僕はフィールドに上がり込んだ。
そこで待っていたのはやはりイグルだった。彼は仁王立ちをしながら、余裕と言わんばかりに意気揚々と僕に話しかけた。
とはいえその自信は、身にまとっている甲冑や魔道具によるものだと思うが。
「負ける準備はできてるんだろ?さっさと終わらせようぜ」
「は?少なからず僕はまだ負けるなんて言ってないんだけど?なんで決めつけるの?マジで腹立つんだけど。そんなこと言ってたの...」
「あー。うるせぇうるせぇ!!わーった。わーったから。審判、さっさと始めてくれ」
僕の言葉の殴打をさえぎって、イグルは審判に試合開始を要求すると、ずっしりとした黒い大剣を構えた。赤黒く光っているところを見ると、何か効果があるように見えた。
『それでは試合を始めましょう!!』
審判の合図と主に、僕はこぶしをぎゅっと握ると、そのまま戦闘態勢をとった。
それを見て疑問に思ったのか、男は顔をしかめていった。
「なんで剣を出さねぇ。今までのお前だったら出してただろう」
「...。なんだっていいでしょ。今の僕にはこれがちょうどいいんだ」
「そうかい。じゃあ...」
開始!!という審判のコールとともに、イグルは右足を強く踏み込むと、まっすぐに僕のほうへダッシュした。
「そんまま場外に落ちな!!」
僕が構えたその時には、気が付けばイグルは眼前にまで迫ってきていた。なにも抵抗せず、そのまま場内の端まで吹っ飛ばされる。
「...」
「おいおい。あんなに強がってたくせに、もう終わりか?手加減したつもりでも、お前にとってはいた痛かったか。悪い悪い」
端っこにいたまま体を動かさないまま放置していると、イグルが俺を挑発した。彼は愉快そうで、構えなんてとうに忘れていた。ゆえに、イグルは隙だらけである。今起き上って攻撃すれば一瞬で勝ちになる。そんな絶好のチャンスではあるけれど、攻撃する気は全くなかった。
「うるさい」
俺は静かに言った後、ようやくその体を起こした。
イグルは少し驚きながらも、いまだ笑いを抑えることはなく俺をさらに挑発する。
「たった一回攻撃を受けて無事だったからと言って、調子に乗るんじゃねぇぞ」
「ごたごた言わずにさっさとしろ」
イグルの挑発を軽くあしらったおかげか、イグルは長い詠唱を終えると手を天にあげ、その手の上にはい大きな火球ができていた。上級炎攻撃魔法である。
待ったこと後悔するんだな。と言わんばかりの表情で見下していたが、悔しいというよりもさっさとしてほしいという感情のほうが勝った。
「こいつで終わりだ!」
そういってイグルは手を振り下ろすと、火球が俺のほうへ向かってきた。その火球は地面をえぐり取っていた。
俺は右手の親指と人差し指を立てて銃を構えると、そのまま下級攻撃魔法を放った。光線弾のように放出された下級魔法は、下級魔法ではあれど、その火球に接触すると同時に相殺した。
「今ので分かった。お前は、俺の強さを試す相手に値しない。降参しろ」
「!?」
火球が消されたことと、格下だと思っていた相手に降参しろと言われた屈辱だったのか、イグルはしばらく放心状態だった。
しばらくして、イグルはようやく口を開いた。
「お...お前は...バケモンか.......?」
「それよりもまずは俺の質問に答えろ。降参するか、しないか。さっさと選べと言っている」
イグルの無神経さに苛立ちを覚えた俺は、少し語気を強めて再度尋ねた。
彼は首を縦に振ると、両手を挙げた。それはつまり、俺との戦いを放棄したことであり、降参の意思表示だった。
「そういえば、さっきお前は俺に化け物か聞いたな。俺はな.....................ただのBクラスのけが人だ」
そういって、僕は場内から立ち去った。
最後まで読んでくださりありがとうございます!執筆速度は遅いですが、これからもこのシリーズを続けていこうともいますので、ブックマークをして待っていただけると嬉しいです。
これからもこのシリーズをよろしくお願いします!