表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コード : クラス  作者: ゆたんぽ
一章 リベリオンの襲来
8/10

第8話 ラリオン。

第8話 ラリオン。


目が覚めたとき、ユウマの喉は乾ききっていた。

鈍い頭痛。鉄の匂い。硬く冷たい床の感触。

まだ夢の中かと錯覚するほど、現実味がなかった。


ゆっくりと上体を起こすと、隣で小さく体を丸める白い影が見えた。


「ユキ……」


かすれた声で名を呼ぶと、彼女がぴくりと反応した。

ユキは顔を上げ、目を見開いた。

彼女の目は腫れ、頬には乾いた涙の跡が残っていた。


「ユウマ……よかった……目、覚めた……」


その声はかすれていたが、確かに震えていた。

そして、同時に強い安堵もにじんでいた。


「ここ……どこなんだ」


「……分からない。気がついたら、ここに閉じ込められてて……」


重い沈黙が落ちた。

灰色の部屋。天井には古びた鉄パイプ。壁には監視カメラが一つだけ。

明らかに、誰かが意図して作った監視のための部屋だった。


ガチャリ。


鈍い音がして、部屋の扉が開いた。


その瞬間、ユウマの背筋が凍る。

ただの足音。それだけなのに、空気が変わった。

体の奥に染みついた恐怖が、ゆっくりと顔を出す。


「来た……」


ユキが、低く呟いた。


現れたのは、黒のコートを纏った男。

長身で、表情のない顔を仮面で隠していた。


――ボス。


かつて、ユウマたちが“人間ではなかった頃”に仕えていた存在。

意思など持たせてもらえず、ただ命令に従うだけの「兵器」として利用された。

あの日々は忘れようとしていたのに、その姿を見た瞬間、体が反射的に強張る。


「ふむ。まだ崩れてはいないか」

男が、冷たい声を発した。「ならば……排除する意味はあるな」


「排除……?」


ユウマが眉をしかめると、男は首をかしげた。


「お前たちは“人間に戻った”。それは想定外だった。だからこうして、最終確認をしている」

「そんな勝手な……!」


「勝手?」

男の声には、感情がなかった。ただの事実を述べるような、冷たい響き。

「お前たちは元々“道具”だった。意志を与えた覚えなどない」


その言葉に、ユキの肩がビクリと震える。


「私たちは……っ!」


ユキが何かを言いかけて、言葉を詰まらせた。

震える唇。強い想いが胸にあるのに、声にならない。

そんな彼女の手を、ユウマがそっと握った。


「ユキ、もういい。もう、あいつの言葉に怯える必要なんてない」


ユウマの目が、まっすぐにボスを捉える。


「確かに、俺たちは自分の意思で人間になったわけじゃない。気がついたら、体も心も変わってて……ただ逃げたかっただけだった」


「だが……俺は、今は違う」


その瞳には、確かな“意志”が宿っていた。


「自分の足で立って、自分の目で選んで、生きてる。ユキも、俺も。……もう、戻らない。絶対に」


その瞬間、空気が変わった。

ボスが手をかざす。空間が軋み、黒い波動が広がっていく。

強烈な“圧”が、部屋中を満たす。


「いいだろう。ならば、“力”で証明してみせろ。お前たちに、意思など必要ないと」


ユウマの背中に熱が集まる。

封じ込めていた力が、再び目を覚ます。


ユキも、同じだった。

彼女の体の奥に潜んでいた力が、呼応するように揺れはじめる。


かつての支配の象徴だった力。

けれど今、それを使う理由は違う。


守りたいものがある。壊されたくない絆がある。


「ユキ、いけるか」


「……うん」


互いに短くうなずき、2人は同時に跳び上がった。


――戦いの火蓋が、静かに落とされた。


第8話 ラリオン 完。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ