第九章:これは教育です!? 若紫との同居生活 若紫を宮中に迎えてから、俺の生活は一変した。
「光る君、まさか本当にあの子を引き取るとは……」
左馬頭は呆れたように言うが、俺は気にしない。
「教育だよ、教育。俺がこの子を立派な女性に育てるんだ」
「……世間ではそれを『囲い込み』と言うのでは?」
「何を言うか! 俺は純粋に彼女の成長を見守るだけだ」
俺がどんなに真剣に言っても、左馬頭は信用していないようだった。
◇◆◇
さて、そんな若紫との生活だが……。
「ねえねえ、光の君!」
「どうした?」
「お庭でお花摘んでもいい?」
「いいよ。でも、転ぶなよ?」
「わーい!」
無邪気に笑いながら庭へ駆けていく若紫。
(……尊い)
彼女はまだ幼いが、その仕草ひとつひとつが愛らしくて仕方がない。
しかし、俺が理想とする立派な女性になるには、学ぶべきことが山ほどある。
◇◆◇
「まずは、字をきちんと読めるようにならないとな」
「えー、むずかしいー!」
「じゃあ、少しずつ覚えていこうか。ほら、この字は『光』。俺の名前にも入ってるだろ?」
「ほんとだ! 光る君の『光』!」
「そうそう、よくできたな」
最初は嫌がっていたが、俺が褒めると彼女は嬉しそうに学び始めた。
この調子で、宮中の女性らしい教養を身につけさせよう。
◇◆◇
しかし、そう簡単にはいかないのが育児というものだった。
「光の君、髪がほどけちゃった……」
「よし、結んでやろう」
髪を整えてやるつもりが、なぜかぐしゃぐしゃにしてしまったり──
「ねえねえ、お外で遊びたい!」
「ダメだ、今日は雨だから」
「えー!」
言うことを聞かずに庭へ飛び出そうとして、慌てて引き止めたり──
(……育児って、想像以上に大変だな)
俺はだんだんと、彼女の世話に振り回される日々を送ることになるのだった。
◇◆◇
それでも、若紫は確実に成長していく。
「光の君、今日もお話して?」
「いいよ。今日は、月の美しさについて語ろうか」
「うん!」
俺の話を楽しそうに聞く彼女を見ていると、なんだか心が落ち着く。
(……このまま、ずっと一緒にいられたらいいのに)
俺はふと、そんなことを思ってしまった。
けれど、それが叶わぬ願いだということを、まだこのときの俺は知らなかったのだ──。