第五十三章:光は陰へ
紫の上を失ったあとも、時は変わらず流れていく。
俺は宮仕えを続けていたが、かつてのような情熱はすでになかった。
何をしていても心が晴れず、空虚な時間をただ過ごしているような感覚——。
それでも、紫の上の願いを思い出すたび、どうにか前へ進もうとしていた。
◇◆◇
「父上、今日もお帰りが遅いのですね」
ある日、明石の姫君が寂しげに呟いた。
「すまない……」
返す言葉が見つからなかった。
彼女のために生きようと思っていたはずなのに、気づけば俺は何もかもが億劫になり、姫君と過ごす時間すら減っていた。
◇◆◇
そんな中、帝からのお召しが届いた。
「そろそろ出家をお考えではありませんか?」
そう言ったのは、冷泉帝だった。
帝は俺を気遣い、そっと告げる。
「母上(藤壺)も亡くなり、紫の上もいなくなられた。父上(先帝)のご遺志を継ぐ者として、そなたの力はまだ必要だが——もし心が決まっているならば、それもまた道でしょう」
◇◆◇
出家——。
かつては考えもしなかった選択肢が、今の俺には妙に現実味を帯びていた。
紫の上がいないこの世に未練がないわけではない。
だが、俺がこのまま生きていて、何か意味があるのだろうか。
◇◆◇
答えが出ないまま、俺は夜の庭を歩いていた。
月が静かに光を投げかける。
紫の上も、きっとこの光を見ていたのだろう——そう思うと、心が少しだけ落ち着いた。
◇◆◇
俺は、この先どう生きるべきなのか。




