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第五十二章:終焉と始まり
紫の上を失った喪失感は、日が経つにつれ、静かに俺の中に沈んでいった。
完全に癒えることはないだろう。それでも——生きていかねばならない。
紫の上が最後まで気にかけていた明石の姫君のために。
◇◆◇
「父上……」
ある日、明石の姫君がそっと俺の袖を引いた。
「お外に出ませんか? お月さまが綺麗です」
俺はしばらく返事ができなかった。
紫の上と過ごした日々を思い出すからだ。
しかし——
「……そうだな」
姫君の手を取り、庭へと足を踏み出す。
夜風が頬を撫で、月の光が静かに庭を照らしていた。
◇◆◇
「綺麗ですね……母上も、この月を見ていたのでしょうか」
「……ああ、見ていただろうな」
紫の上も、何度もこの月を眺めていたはずだ。
だが、今は——もう届かない場所にいる。
◇◆◇
ふと、明石の姫君が俺の手をぎゅっと握る。
「……父上、ずっとそばにいてくれますか?」
「……もちろんだ」
俺は彼女の小さな手を握り返した。
紫の上はもういない。
だが、俺にはまだ守るべきものがある。
◇◆◇
喪失の先に、何が待っているのかは分からない。
けれど、月は変わらず輝き続ける。
俺も、前へ進もう。
紫の上が愛した、この世界の中で——。




