第五十一章:残るもの、消えるもの
紫の上の死からしばらく経ったが、俺の心の穴は埋まることがなかった。
朝、目を覚ますたびに隣が空いていることに気づき、夜、寝所に戻るたびに彼女がいない現実を突きつけられる。
この喪失感は、どれだけ時が経てば和らぐのだろうか——。
◇◆◇
「光の君……少し、お外の空気を吸われてはいかがでしょうか」
葵上の時も、藤壺の時も、愛しい人を失ったとき、俺は悲しみを紛らわせるように他の女のもとへ通ったものだ。
だが、今回は違った。
どの女の顔を見ても、何も感じない。
紫の上以上に愛せる者など、もうこの世にいないのではないか——そんな気すらしてくる。
◇◆◇
そんな俺の変化に、周囲も気づいているのだろう。
女房たちが静かに見守る中、ある日、明石の御方がそっと俺の前に座った。
「光の君……」
彼女は、紫の上のことを語るわけでもなく、ただ静かに俺を見つめていた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……あの方が望まれたのは、光の君の幸せでした。どうか、ご自身を責めないでください」
「……」
◇◆◇
俺は、何かを答えようとしたが、言葉が出なかった。
紫の上の幸せ——。
それは、本当に俺と共にいることだったのだろうか?
もし俺がもっと早く気づいていれば、彼女はもっと幸せだったのではないか?
そんな思いが、俺の胸の中で渦巻いていた。
◇◆◇
それでも、前に進まなければならない。
紫の上のために——明石の姫君のために——そして、自分自身のために。
俺は、そっと目を閉じ、深く息を吐いた。




