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第四十九章:喪失の果て
紫の上を失ってからというもの、俺はただ時間に流されるように日々を過ごしていた。
屋敷には彼女の面影が色濃く残っている。
衣の香り、琴の音色が響いたかのような錯覚、ふとした瞬間に呼びかけてしまいそうになる自分——。
だが、その先に彼女はいない。
◇◆◇
「光の君……少し、お召し上がりください」
女房が膳を用意してくれるが、手をつける気になれなかった。
「すまない、下げてくれ」
「しかし……」
「いいんだ」
◇◆◇
何も食べず、ただ紫の上のことばかり考えていた。
彼女がいた頃、俺は何気なく幸せを感じていたのだと、今さら思い知る。
「……紫の上」
名を呼んでも、返る声はない。
◇◆◇
夜になると、ますます孤独が胸を締めつける。
以前の俺なら、他の女のもとへ行き、酒を飲み、気を紛らわせていたかもしれない。
だが、今はそんな気にもなれなかった。
月明かりだけが静かに差し込む部屋で、俺はひとり紫の上の形見を撫でる。
「……どうすればいいんだ」
答えはないまま、夜が更けていった。




