48/54
第四十八章:残されたもの
紫の上が息を引き取った日、京の空はどこまでも晴れ渡っていた。
まるで何事もなかったかのように、風は優しく庭の草木を揺らしていた。
それが、かえって俺の心を締めつける。
◇◆◇
「光の君……」
葬儀の準備を進める女房たちは、俺に声をかけることすらためらっていた。
俺はただ、紫の上の亡骸のそばに座り続けていた。
「……紫の上、お前は、本当にいなくなったのか」
問いかけても、返事はない。
◇◆◇
彼女の寝所には、今も彼女の気配が残っていた。
香の匂い、整えられた衣……そのすべてが、まるで紫の上がまだここにいるような錯覚を生み出す。
けれど、布団の中には、もう彼女の温もりはない。
俺は手を伸ばし、そっと衣を握りしめた。
「……なあ、紫の上……」
言葉を続けることができない。
◇◆◇
紫の上がいない世界は、こんなにも静かだったのか。
俺は、ただ虚空を見つめるしかなかった。




