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第四十五章:別れの予感
紫の上の病は、まるでゆっくりと命を削るように、確実に彼女の身体を衰弱させていった。
俺は毎日彼女のそばにいたが、どうすることもできなかった。
◇◆◇
「光の君……」
ある夜、紫の上は細い声で俺を呼んだ。
「……どうした?」
彼女は微笑んだが、その笑顔は儚く、どこか遠くを見るような瞳をしていた。
「私……夢を見ました」
「夢?」
「ええ……とても美しい場所でした」
紫の上はゆっくりと目を閉じる。
「花が咲き乱れ、小川が流れていて……光の君が、そこで私を待っていてくれました」
◇◆◇
俺は言葉を失った。
「光の君……」
「何だ?」
紫の上はそっと俺の手を握った。
「……私、そろそろ行かなくてはいけないのかもしれません」
「バカを言うな!」
思わず声を荒げた俺に、紫の上は優しく微笑んだ。
◇◆◇
「光の君は……私がいなくても、大丈夫ですよね?」
「大丈夫なわけがないだろう!」
俺は彼女の手を強く握った。
「お前がいなくなったら、俺はどうすればいいんだ?」
紫の上は、静かに目を閉じた。
「……それでも、光の君には、生きていてほしいのです」
◇◆◇
その夜、俺は眠ることができなかった。
紫の上を失うかもしれないという恐怖が、心を締めつけていた。




