第四十二章:別離の決断
紫の上の言葉が胸に重くのしかかるなか、俺は決断を迫られていた。
明石の姫君の娘が皇太子の后になれば、明石の姫君の立場は確実に強くなる。
その一方で、紫の上の心には迷いが生じていた。
俺はこのまま進むしかないのか——
◇◆◇
「光の君……」
その日、紫の上が静かに俺の前に座った。
「私は、都を離れようと思います」
「……なんだと?」
思わぬ言葉に、俺は耳を疑った。
◇◆◇
「私は、この屋敷にとどまることで、光の君を縛りつけてしまっているのではないかと思うのです」
紫の上は、穏やかに微笑んだ。
「光の君は、これからますます公の務めに励まれなければなりません。私は、静かに身を引いたほうがよいのではと……」
「そんなことを言うな!」
思わず声を荒げた俺に、紫の上は優しく首を振った。
◇◆◇
「私も、光の君を愛しています。でも、それだけではいけないのです」
彼女の瞳に、涙が滲んでいた。
「私がそばにいることで、光の君が苦しむのなら……私は、ただ愛する人のために、身を引こうと思います」
◇◆◇
俺は、彼女の手を強く握った。
「お前を失いたくない」
「……私も、本当は離れたくありません」
紫の上は、そっと俺の頬に手を添えた。
「でも、私はただの一人の女です。光の君の人生にとって、何が最善なのか……それを考えたいのです」
◇◆◇
紫の上の決意が固いことを悟った俺は、言葉を失った。
彼女を引き留めることが、本当に正しいのか——
俺の中に、迷いが生まれていた。




