第四十章:別れの予感
帝からの提案を受けて以来、俺の心は落ち着かなかった。
明石の姫君を皇太子の后にすることは、彼女にとっても娘にとっても最上の道かもしれない。だが、それは同時に、俺たちの家族としての在り方を大きく変えることを意味していた。
◇◆◇
その夜、俺は明石の姫君のもとを訪れた。
「光の君……」
彼女は俺の顔を見るなり、何かを察したのか、静かに膝を折った。
「突然すまない。話がある」
「……何か、重大なことでしょうか?」
俺は帝の意向を伝えた。
明石の姫君は驚いたように目を見開き、しばらく沈黙した。
◇◆◇
「娘が……皇太子の后に……」
「そうだ。帝も強く推しておられる」
明石の姫君はしばらく考え込んでいたが、やがて深く息をついた。
「娘にとって、それは……とても名誉なことですね」
「お前はどう思う?」
「……光の君は、私の気持ちを聞いてくださるのですか?」
俺は黙って頷いた。
◇◆◇
明石の姫君は、ほんの少し微笑んだ。
「私は、光の君のおそばにいるだけで幸せでした。娘もまた、この屋敷で愛され、何不自由なく育つと思っていました」
彼女の声は静かだった。
「でも、皇太子の后となれば……娘はもう、私たちの手の届かない場所へ行くことになりますね」
◇◆◇
その言葉に、俺の胸が痛んだ。
「そうだな……」
「でも、それが娘のためならば……私は、喜んで送り出します」
彼女の瞳に涙が滲むのを見て、俺はそっと手を握った。
「俺も、簡単には決められない。だが、最良の道を選びたいと思っている」
明石の姫君は、小さく頷いた。
◇◆◇
娘の未来のために、俺はどうすべきなのか。
紫の上のことも考えれば、この決断は、家全体の運命を変えることになる。
静かな夜の帳が降りる中、俺の心は揺れ続けていた──。




