表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/54

第三十八章:すれ違う心

秋が深まり、冷たい風が吹くようになった頃、屋敷の中にはどこか重たい空気が漂い始めていた。


明石の姫君は新しい環境に少しずつ慣れ、慎ましくも気品ある振る舞いで周囲に溶け込んでいた。


一方で、紫の上の様子は以前とは変わりつつあった。


◇◆◇


「光の君、今夜はどちらでお過ごしになられますか?」


ある夜、そう尋ねられたとき、俺は言葉に詰まった。


「……少し、明石の姫君の様子も見に行こうと思う」


紫の上は静かに微笑んだ。


「そうですか。それなら、どうぞごゆっくり」


その言葉に棘はなかった。


それが、かえって苦しかった。


◇◆◇


「紫の上、怒っているのか?」


俺がそう聞くと、彼女は小さく首を振った。


「怒ってなどおりません。ただ……」


そこで、一瞬言葉を飲み込む。


「私は光の君のおそばにいるだけで、幸せなはずなのに……心がざわつくことがあるのです」


「ざわつく?」


「明石の姫君が悪いのではありません。ただ……私は、何かを失ってしまうのではないかと、不安になるのです」


◇◆◇


俺は、紫の上の手を取った。


「お前が不安に思うことは何もない。俺の気持ちは変わらない」


「……そうですね。きっと、そうなのでしょう」


紫の上は微笑んだ。


だが、その微笑みはどこか遠く、触れようとしても掴めないもののように感じられた。


◇◆◇


俺たちは、確かに同じ場所にいる。


けれど、心の距離は少しずつ開いていく──


それが、どうしようもなく切なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ