第三十四章:明石の姫君の新たな生活
明石の姫君を屋敷に迎え入れることになったが、それが簡単なことではないのは分かっていた。
「明石の姫君の御殿を、どこに設けるべきでしょうか?」
女房たちがひそひそと話しているのが聞こえる。
紫の上がいるこの屋敷で、もう一人の女性を迎える。
当然、皆がどう振る舞うべきか迷っていた。
◇◆◇
「……私は、どうしたらいいのでしょう」
明石の姫君が不安げに俺を見つめる。
「焦らなくていい。ゆっくり都に馴染めばいいんだ」
「でも……私は、紫の上さまのように、都の暮らしを知りません」
その言葉には、彼女自身の劣等感がにじんでいた。
明石の姫君は賢く、気立ても良い。
だが、それでも紫の上と比べれば、何もかもが足りないと思ってしまうのだろう。
(……そんなことはない)
そう伝えたかったが、うまい言葉が見つからなかった。
◇◆◇
紫の上との初対面は、静かなものだった。
「初めまして、紫の上さま……」
「ようこそいらっしゃいました」
互いに穏やかに微笑み合う。
だが、その微笑みの裏には、複雑な思いが隠されているのがわかった。
紫の上は、決して冷たくはしなかった。
むしろ、丁寧に明石の姫君を気遣っていた。
だが、それが逆に姫君を委縮させてしまう。
(……これは、時間がかかるな)
俺はそっとため息をついた。
◇◆◇
明石の姫君が新しい環境に慣れるまでには、もう少し時間が必要だった。
都の暮らし、紫の上との関係、そして、俺自身の気持ち。
すべてが絡み合い、ゆっくりと新しい形を作っていく──。




