表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/34

第二十九章:明石の決意

明石の姫君の言葉が、俺の胸に深く残った。


(寂しい、か……)


それは俺も同じだった。


須磨での孤独な日々を思えば、ここでの時間は確かに温かく、穏やかだった。


だが、それだけで彼女を都へ連れていく決断をしていいのか?


紫の上を思うと、やはり心が揺れる。


◇◆◇


翌日、俺は再び明石入道に呼ばれた。


「光の君、昨夜は娘が無礼をいたしましたな」


入道はそう言いながらも、どこか誇らしげな表情をしていた。


(……まさか、姫君が俺に何を言ったか、すでに知っているのか?)


「光の君。娘はこの地で大切に育ててまいりましたが……そなたの元へ嫁ぐのなら、それもまた天の定めでしょう」


(やはり、そういうことか)


明石入道の狙いは明白だった。


俺と姫君を結びつけ、いずれ都へ送り出し、彼女を帝の母たる存在にする。


つまり、俺の子を天皇にすることで、この明石の家を不動のものとしようという魂胆なのだろう。


◇◆◇


「光の君……どうか、娘をおそばに」


明石入道の言葉に、俺は少し考えた。


(……もう、俺の心は決まっているのかもしれない)


姫君への情がないわけではない。


それに、このまま都に戻って彼女を置いていけば、彼女は一生、寂しさを抱えて生きることになる。


「……俺が都に戻る時、彼女を連れて行く」


俺がそう答えると、入道は深く頷いた。


「感謝いたします、光の君……」


◇◆◇


その夜、俺は明石の姫君のもとを訪れた。


「……光の君?」


「お前を、都へ連れて行く」


彼女の瞳が大きく揺れた。


「……本当に?」


「ああ。俺が約束する」


彼女はしばらく黙っていたが、やがて、そっと目を伏せた。


「ありがとうございます……光の君」


その声は、月夜の風に溶けるように優しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ