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第二十五章:運命の琴の音
夜の帳が降りるころ、館の奥から再び琴の音が響いてきた。
(……昼間と同じ音色だ)
明石の姫君が奏でる旋律は、どこか儚く、美しい。
俺はしばらく耳を傾けた後、そっと廊下を歩き、音のする方へ向かった。
◇◆◇
「……!」
部屋の入り口で足を止めると、そこには一人の女性の姿があった。
薄衣を纏い、静かに琴を奏でる彼女──明石の姫君。
俺の視線に気づくと、彼女は驚いたように顔を上げた。
「……光の君」
「美しい音色だ。まるで月の光を奏でているようだな」
彼女は恥じらうように目を伏せた。
「このような田舎の琴など、お耳に適いませぬでしょう……」
「いや、そんなことはない。都の女たちの洗練された演奏とは違う……が、心に響く音だ」
俺がそう言うと、彼女は少しだけ微笑んだ。
◇◆◇
その後、俺は彼女と琴を交え、静かな時間を過ごした。
不思議なことに、彼女といると、須磨で感じた孤独が少しだけ和らいでいく気がした。
(この出会いは……偶然なのか? それとも運命なのか?)
俺は明石の姫君を見つめながら、そんなことを考えていた。




