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第二十四章:明石の姫君
明石入道の館は、須磨よりもはるかに整っていた。
(さすが地方の有力者だけあって、なかなかの屋敷だな)
そう思いながら、俺は客間に通された。
「光の君、ささやかながらおもてなしをさせていただきます」
明石入道は丁重に俺をもてなしてくれたが、彼の態度にはどこか緊張が混じっていた。
(……何か企んでいるのか?)
そんなことを考えていると、不意に襖の向こうから琴の音が聞こえてきた。
(……美しい音色だ)
「どなたが弾かれているのです?」
俺が尋ねると、明石入道はわずかに目を伏せて言った。
「私の娘でございます」
◇◆◇
夕暮れ時、庭を歩いていると、ふと一人の女性の姿が目に入った。
(……あれは)
彼女は遠くからこちらを見ていたが、俺と目が合うと慌てて屋敷の奥へ消えていった。
「……あれが、入道の娘か?」
明石の姫君──
彼女との出会いが、俺の運命を大きく変えることになるとは、この時はまだ知る由もなかった。




