第十九章:朧月夜、危険な逢瀬 藤壺との別れからしばらく経った。
俺は日々を過ごしながらも、心の奥にぽっかりと穴が開いたような感覚を抱えていた。
(……このままではいけない)
そう思っていた矢先、運命は思わぬ形で俺を揺さぶることになる。
その名は、朧月夜。
右大臣の娘であり、帝の寵愛を受ける予定の女性──
そして、俺にとって新たな禁断の相手だった。
◇◆◇
「光の君、今宵の宴にはお越しになられますか?」
藤式部丞が俺にそう尋ねてきた。
「……まあな」
帝をはじめ、貴族たちが集う春の夜の宴。
俺は気分を変えるためにも、その場に赴いた。
◇◆◇
桜の花が満開を迎え、宮中には雅な音楽と笑い声が響いていた。
その中で、俺の視線はひとりの女性に引き寄せられる。
(……誰だ?)
月の光に照らされ、ほんのりと桜色に染まる頬。
長い黒髪をなびかせながら、彼女は優雅に微笑んでいた。
(……美しい)
俺は無意識のうちに、彼女のもとへと歩み寄っていた。
◇◆◇
「あなたが光の君……?」
彼女は俺を見つめ、微笑む。
「私は朧月夜と申します」
(……朧月夜?)
右大臣家の娘であり、帝の寵姫になる予定の女性。
(これは……また、まずい相手に惹かれてしまったな)
だが、そんな理性を超えて、彼女の瞳には不思議な魅力があった。
「今宵の月は、とても綺麗ですね」
「ええ……まるで、あなたのようです」
俺はつい、そう言ってしまった。
◇◆◇
夜が更けるにつれ、宴の熱気は高まり、人々は思い思いに語らい、楽しんでいた。
そんな中、俺は朧月夜とともに、人気のない場所へと歩いていた。
「光の君……こんなこと、いけないことなのは分かっています」
「俺も……分かっている」
だが、互いの距離は縮まるばかりだった。
次の瞬間、俺たちはそっと唇を重ねた。
◇◆◇
「……光の君、そろそろ戻りませんと」
朧月夜が名残惜しそうに囁く。
「また……会えますか?」
「……ええ」
そう言い残し、彼女は去っていった。
俺は夜風に吹かれながら、しばらくその場に立ち尽くしていた。
(……また、危ない橋を渡ってしまったな)
だが、その危険な魅力こそが、俺を強く惹きつけていた。
そして、この恋が新たな波乱を呼ぶことになるのだった──