第十八章:密やかな愛、藤壺との別れ 冷泉帝──俺の子でありながら、帝の世継ぎとして育てられる運命を背負った赤子。
(このまま何事もなく育ってくれればいい……)
そう願うしかなかった。
だが、藤壺との関係は、それを許さなかった。
◇◆◇
「光の君……もう、お会いするのはやめましょう」
藤壺の言葉に、俺は息を呑んだ。
「なぜ、そんなことを言う?」
「このままでは、私たちは破滅します。冷泉帝が生まれた今、私は帝の母として生きねばなりません」
彼女は静かに微笑むが、その表情はどこか儚げだった。
「もう、貴方とこうして会うことも……話すことも……できないのです」
(そんなこと、認められるか)
俺は藤壺の腕を掴んだ。
「俺は……お前を愛している」
「……私も」
彼女はそっと目を伏せる。
「でも、だからこそ、お別れしなければならないのです」
◇◆◇
俺は、何も言えなかった。
この関係を続ければ、すべてが壊れる。
(冷泉が、俺の子だと知られたら……)
宮中の秩序は崩れ、俺も藤壺も、そして冷泉も、ただでは済まないだろう。
「これが、最善なのですね……」
俺は彼女の手を最後に握りしめると、ゆっくりと手を離した。
「……分かった」
藤壺は涙をこらえ、俺に背を向けた。
そして、そのまま歩み去る。
(もう、二度と……彼女に触れることはできないのか)
俺はその場に立ち尽くし、藤壺の背中が見えなくなるまで、ただ見つめ続けていた。
◇◆◇
それからというもの、俺は宮中で藤壺を見かけても、決して近づかなかった。
彼女もまた、俺に視線を向けることはなかった。
だが、その沈黙こそが、俺たちの罪を隠すために必要なことだったのだ。