第十四章:俺の姫を返せ! 若紫奪還戦 「右大臣殿、俺はもう一度言う。若紫を返してもらおう」
俺は正面から右大臣と向き合った。
「光の君、それはできませんな。彼女はすでに正式に我が家の養女。勝手に連れ出すようなことがあれば、それこそ問題になりましょう」
(くそ……! こいつ、完全に法的な手順を踏んできやがったか)
俺の手元に証拠はない。右大臣家は正式に養女縁組を結んでおり、俺が「奪われた」と言っても、法的には通らない。
(とはいえ……このまま引き下がれるかよ)
◇◆◇
「光の君!」
若紫が俺を見つけるなり、駆け寄ろうとする。
だが、女房たちがすぐに彼女を制止した。
「若紫様、こちらに戻りませ」
「でも、光の君が……!」
若紫の目には、不安が浮かんでいる。
(畜生……! 俺を頼る目をしているのに、手を伸ばせないなんて)
俺は深呼吸して、冷静になった。
(正面からぶつかってもダメなら、策を講じるしかない)
◇◆◇
俺はひとまず宮中に戻り、左馬頭と作戦を練ることにした。
「どうするのです? さすがに相手は正攻法できましたぞ」
「わかってる。でも、俺にとっては『彼女を奪われた』ことに変わりない」
俺は机を叩き、静かに言った。
「方法は一つだ……右大臣家にとって『若紫を手放さなければならない理由』を作る」
左馬頭は驚いたように目を見開いたが、すぐにニヤリと笑った。
「なるほど。策を弄するわけですな?」
「正攻法で来るなら、こっちもそれなりの手を使うまでだ」
俺はすぐに動き出した。
◇◆◇
翌日、俺は宮中の上層部、特に藤壺の兄である中納言のもとへ向かった。
「光る君、いったい何の用かな?」
「単刀直入に言います。右大臣家が若紫を養女に迎えましたが……果たして、それは本当に正しい選択でしょうか?」
「……どういう意味だ?」
「彼女は藤壺様の親族。そして、俺の庇護下にあった」
中納言は眉をひそめた。
「まさか……あなた、何かするつもりでは?」
「俺はただ、宮中にとって何が最善かを考えているだけですよ」
俺は穏やかに微笑んだ。
(さて……これでどう出るか)
◇◆◇
数日後、宮中では「右大臣家が光源氏から姫君を奪った」という噂が広まり始めた。
「光る君、まさか……」
左馬頭が呆れたように言う。
「いやぁ、俺は何もしてないんだけどなぁ……?」
「……ったく」
右大臣家にとって、宮中の評判は重要だ。
(これで若紫を手放す理由ができたはず)
そして、ついに──
「光の君、右大臣家から使者が参りました」
俺はゆっくりと笑みを浮かべた。
(ようやく、俺の姫を取り戻せる)