第十三章:若紫を奪還せよ!? 右大臣家の強引な策 「……どういうことだ?」
俺は信じられない報告を聞いて、思わず低い声を出した。
「右大臣家が、正式に若紫様を迎え入れる話を進めているようです」
左馬頭の言葉に、俺は拳を握る。
「ありえない。若紫は俺のもとで育てると決めたんだ」
「ですが……彼らは藤壺様の兄である中納言を通じて、正式な養女として迎え入れる手はずを整えたとか」
「……っ!」
あの中納言め、俺に協力するフリをして、裏で右大臣家と話を進めていたのか……?
いや、もしかすると宮中の圧力に抗えなかったのかもしれない。
(くそ……このままでは若紫を奪われる)
俺は迷っている時間がないと悟った。
◇◆◇
夜、若紫は何も知らずに俺のそばで穏やかに微笑んでいた。
「光の君、今日はお花をたくさん見つけたよ」
「そうか」
俺は彼女の小さな手を握る。
「若紫……もしも、誰かが『こっちに来なさい』と言っても、俺が迎えに行くまで動くな」
「え? どういうこと?」
「何でもない。……ただの約束だ」
若紫はきょとんとした顔で頷いた。
(……絶対に、お前を渡さない)
◇◆◇
そして数日後、とうとう右大臣家が動いた。
「光の君、若紫様が……っ!」
「……まさか」
「屋敷が襲われ、若紫様が連れ去られたと……!」
俺は即座に立ち上がった。
(ふざけるな……!)
◇◆◇
俺はすぐに馬を走らせ、右大臣家の屋敷へと向かう。
「右大臣殿、お話があります」
「おや、光の君。どうされましたかな?」
「……若紫を返していただきたい」
「ほう? ですが彼女は正当な養女として、我が家に迎え入れましたぞ?」
(……っ!)
「しかし、彼女は俺のもとで育てていた。勝手に連れ去るのはあまりに強引では?」
「いやいや、彼女の将来を考えれば、こちらのほうがふさわしいでしょう」
(クソ……理屈では負ける……)
だが、俺は諦めない。
「若紫は、俺と共に生きると決めている」
右大臣が何かを言いかけたとき、突然奥から小さな声が聞こえた。
「光の君……」
若紫が、俺を見つめていた。
その瞳には、不安と……俺への信頼があった。
俺は決めた。
(どんな手を使ってでも、若紫を取り戻す)