第十章:不穏な影!? 若紫を狙う者 若紫を引き取ってからしばらく経ち、俺のもとでの生活にもすっかり慣れてきたようだった。
「光の君、見て! 今日はお花をたくさん摘んできたの!」
満面の笑みで花を抱えて駆け寄る若紫。その無邪気な姿に、俺は微笑ましく思う。
(……可愛い。癒される)
彼女が成長するまで、俺は大切に育てていこう。そう心に決めていた。
しかし──その穏やかな時間に、突如として不穏な影が差し込む。
◇◆◇
ある日、左馬頭が神妙な顔で俺のもとを訪れた。
「光る君、少しお話が……」
「なんだ、そんな顔して」
「実は……若紫様の存在が、外に漏れてしまったようです」
「……!」
俺は思わず眉をひそめる。
「どこから漏れた?」
「詳しくは分かりませんが、どうやら右大臣側が動き出しているとか……」
右大臣。つまり、俺を目の敵にしている弘徽殿の女御の父親だ。
(あの一族が動いているとなると、ただ事じゃないな)
◇◆◇
しばらくすると、宮中でこんな噂が流れ始めた。
──光る君が、どこからか幼い少女を連れてきて囲っているらしい
──しかも、まだ正式な妻ではないとか……
(おいおい、言い方!)
俺は確かに彼女を引き取ったが、まだ育てている段階だ。そんな妙な噂が広まるのは困る。
そして、問題はそれだけではなかった。
「右大臣家の某が、若紫様に興味を持っているそうです」
「……何?」
「どうやら、若紫様を養女に迎えたいと申し出るつもりらしい」
(ふざけんな!)
俺は心の中で思わず叫んだ。
今さら彼女を手放せるわけがない。
◇◆◇
その夜、俺は若紫の寝顔を見つめながら考え込んでいた。
(……このままでは、いずれ若紫を奪われるかもしれない)
彼女はまだ何も知らず、無邪気に俺を慕っている。
だけど、貴族の世界はそんな甘いものじゃない。
このまま成長すれば、いずれ彼女は他の誰かと結婚させられる運命にある。
(そんなの……絶対に嫌だ)
俺は彼女を手放す気はない。
だったら……。
(いっそ、正式に妻として迎えるか?)
一瞬、そんな考えが頭をよぎる。
だが、彼女はまだ幼い。今すぐにどうこうするつもりはない。
……けれど、未来のために何か手を打たなければならない。
俺は静かに決意を固めた。
「若紫、お前は俺が守る」
寝息を立てる彼女の額にそっと触れながら、俺は誓ったのだった。




