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第六話 どの未来も同じだった

 バチンッという音が辺りに響きわたります。

 私の右手の拳がジンジンと痛く、扇で叩けばよかったと今更後悔していました。


「避けるかと思ったのですが、避けなかったのですね?」


 私は思いっきり目の前の陛下の頬を殴りました。私はてっきり避けられるかと思ったのですが、敢えて受けたようですわね。


「色々文句は言われる覚悟はしていたが、まさか殴ってくるとは、本当にアンリローゼの行動は予想外すぎる」


 殴られたにも関わらず、クツクツと笑いながら口元を手の甲で拭っている陛下。どうやら口の中を切ってしまったようです。しかし、私は謝りませんわよ。


「あら? 殴られるとは思いませんでしたの? 原因は全てあの赤い宝石ですわよね?」 


 そうです。このような状況になっているのは全てあの赤い宝石が原因なのです。


「私の管轄地に採掘地なんてありませんのに、あんな赤い宝石が管轄地から採れたなど言わせられたものですから、怪しい術を使って人を宝石に変えたなど噂話が出てきて、人を誘拐して殺しただなんて冤罪が掛けられたではないですか!」


 別に皇妃から降ろされるのは喜んで他の方に譲りましょう。しかし、その過程が人体実験で高魔力の魔石を作り出したなんて噂から断罪という流れになったのです。


「だが、証拠が見つからず騒ぎが大きくなったことへの対処として、皇妃からの降格ということになったではないか。それに紅玉の『ミスティレイ』はアスタベーラから採掘されたものだ。言い換えると未来のアンリローゼが管理する領地から採掘された宝石で嘘ではない」


 ……なんです? その屁理屈は? 誰が未来の話をしているのですか! 誰もが未来を見ることができるわけではないのです。


「因みにあの噂の元凶はサイザール公爵だ」

「知っております」

「皇妃からアンリローゼを引きずり下ろしたかったのもサイザール公爵だ」

「はぁ……わかっております」

「だが、護衛を常に周りにおいておけば、あれほど話が大きくならなかったはずだ。なんのためにグラヴァートがいたと思っていたんだ?」

「……一人になりたいときぐらいありますわ」

「大抵そのときは、下街にいて俺が連れ戻していたと思うが?」

「ええ、よく探せ出せるものだと感心しておりましたよ」


 結局クロード様だったのなら、魔眼で私の魔力の痕跡を探して、私が変装していても見つけられたのでしょう。


「愛があればいくらでもアンリローゼを見つけられる」

「よく言いますね」


 すると黒髪のクロード陛下の姿が一瞬で、見慣れた金髪碧眼のグラヴァート卿の姿になる。

 目の前で色変えの魔法を使われますと、同じ人物だとわかりますが、偽物を常に見て、たまに本物のクロード陛下をみても、グラヴァート卿とクロード陛下を同一人物には見えません。そう、今はいつもと同じ朗らかな笑みを浮かべたグラヴァート卿がいるのです。


「アンリローゼ様」


 そう言ってグラヴァート卿の姿をしたクロード陛下は、幼い私の記憶と同じように私の手をとって、跪きました。


「アンリローゼ様の護衛であり、アスタベーラ領の領主となったラディウス・グラヴァートの妻になっていただけますか?」

「……もう婚姻届にサインしたわよ」


 結局のところ私の部屋に押し入ってきた皇帝陛下は目の前のクロード陛下でしたし、私に妻になって欲しいと言っているグラヴァート卿もクロード陛下ですし、今更妻にと言われましても何を答えるのですか?


「普通は『はい』と答えるところではないのですか?」


 立ち上がりながらクスクスと笑うグラヴァート卿に、ため息をこぼします。

 どちらにしても困ったことになることには変わらないのです。


「アンリローゼ様。皇太子という理由で求婚を断られたのです。ですから一領主まで身分を落としたのですよ。しかしこれ以下だと愛する妻に生活の不自由をさせてしまいますからね。アスタベーラ領主ぐらいがいいと思うのですよ。如何ですか?」


 如何ですかですって? クロード様が普通に皇帝であれば、色々面倒なことをあの迂愚より軽々と解決されたのではないのですか? そもそも帝国をどうするのです。捨て去るのですか?


 色々言いたいことがありますが、まずは……


「私に拘る必要が、そもそもないのでは?」


 全てはここです。クロード陛下が私などその辺りに捨てておけば、このようなややこしいことをしなくて良かったのです。


「そうですね。アンリローゼ様を私の妻にと考えなければ……決まり切ったつまらない世界を壊していただろう」


 グラヴァート卿の姿で陛下と同じ口調で話されると、足を一歩引いてしまいます。


「お優しいアンリローゼ様は帝国の未来を案じておられるのでしょうが……」

「私は優しくはなくてよ」

「照れなくてもいいのですよ。ああ、私にだけ優しくしてくれていいのです」


 ……私の記憶ではグラヴァート卿に優しくした覚えはありません。それから、照れていないですわ!


「そうですね。私が皇帝の座に居続けた場合、後三年ぐらいで飽きて、帝国を潰しますね」


 ……いい笑顔で、最悪の帝国の未来を語らないで欲しいですわ。


「全てが決まり切った世界の何が面白いのでしょう? どの未来でも私は帝国を戦乱に導きますね」


 全てが決まり切った世界。その中で歯車のように生きていくことに希望を持てないということなのでしょうか。だから全てを破壊する。


「しかし、アンリローゼ様が私の手を取ってくださった場合、帝国の衰退は緩やかになりますよ」


 これは私は脅されていますか? 帝国が戦乱に陥れば、周りにある国々も影響は大きく、下手すれば世界を巻き込んだ戦いに……あら? もしかして、世界を壊すというのは帝国をきっかけに、世界中が戦乱に陥ると言われています?


「はぁ……求婚をお受けします前に、一つ確認があるのです」

「何でしょう?」

「今のグラヴァート卿は……」

「ラディウスですよ」

「……ラディウス様は碧眼ですが、陛下は赤眼ですわよね? 直系の子供に赤い目の子が生まれてきては、大変問題になりますわ」


 皇族の直系に生まれてくるという赤い眼を持つ子供。色変えの魔法を使っているとは言え、本来の色は皇族を示す魔眼の赤眼。私の子に赤い目の子供が生まれてきては大変問題になります。


 そう、私に不倫疑惑が持ち上がるではないですか!



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