第1章 あの人
今日は、つま先立ちをしている気分。
「大丈夫かな」という不安と、「みんなはなんて言ってくれるだろう」という期待で胸がいっぱい。
下駄箱で靴を履き替える。
一歩一歩踏み出す度に、私の鼓動が大きくなる。
人生で初めてだった。自分だけで大きな決断をしたのは。
いつでも、なんでも、ママや親友の三玖に相談していた。
「高校はここでいいのかな?」
「新作のリップ、02番でいいと思う?」
そんな私が誰にも相談せず、お小遣いを握りしめ、1人で駅前の美容院へ向かった。
長年大切に伸ばしてきた腰まである長い髪。
ばっさりと、肩の上まで切ってしまった。
鏡に映る私が、私じゃないみたいだ。
けれども、そこに映っていたのは確かに私だった。
ショートヘアが想像していたよりも似合っているような気がして、心が踊ってしまう。
しかし、それ以上に、自分だけで考えて行動できたことに、とても満足していた。
同時に、「これから自分は変わるんだ」と、床に落ちている髪を見ながら手をぎゅっと握った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、、、、
意を決して、教室に足を踏み入れる。
すると、窓辺に座っている三玖が声を上げた。
「えー!髪が短くなってるー!」
三玖はタタタタタッと近づいてきて、両手で私の頭を撫でた。教室のあちこちからも、友達が集まってきた。
「ロングもよかったけど、ショートも最高!」
「ちょー似合ってるよ!」
私は、頬がほんのり赤くなっていくのを感じた。
「なんで髪切ったの?気になる!」
いつも高い位置のポニーテールを綺麗に巻いている、日菜が聞いた。
「えっと……」
私は髪を切ると決めた夜のことを思い出す。
いつも部活の前にすれ違うあの人。
野球のユニフォームに身を包み、大人っぽくて、一生懸命にボールを追いかけているあの人。
話したことは一度もないけれど、噂でショートヘアが好きだと聞いた。
髪を切ったら、話しかける勇気が出るのかな。
私、変われるのかな。
そう思い、私は髪を切った。
でもこのことは、過去の私と今の私とのヒミツ。
「うーんとね……イメチェン……したくて……!」
私は少し、ウソをついてしまった。




