第5話 狩れども・・・
毎朝6時投稿予定です。
銀貨5枚の宿に泊まり、朝から夕方まで西の草原で狩りをする・・・。何とか生活は出来ていたものの、週1日休むのがやっとという状態で、その日暮らし・・・防具どころか、新しい剣も買えない状態であった。もし、剣が折れてしまったら・・・考えただけでも恐ろしい。
(まずい・・・今のままではちょっと怪我しただけで詰んでしまう)
何かいい方法はないだろうかと思いながら、西の草原に向かっていると、声を掛けられた。
『お兄ちゃん!』
思わず振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。孤児院の子たちである。声を発したのは、孤児院の元気担当、キャロルである。10歳の彼女は、孤児たちのリーダー的存在になっていた。
『なあ・・・兄ちゃん。強くなった?』
キャロルが右腕を掴んで来た。
『まあ・・・なんとかホーンマウスを狩って暮らしているよ』
ボナの本音であり、現状を正しく表現した状態でもあったのだが、
『草原に薬草を摘みに行くの。一緒に行こうよ』
なんと、ボナからのお誘いである。孤児院の収入の足しにしようと、薬草を皆でとりに行くらしい。よく聞けば、行先はほぼ同じだった。
『ゴブリンとかが出てくるぞ。大丈夫なのか?』
ボナが見回すと、キャロルを筆頭に年長組ともいえる8歳以上のメンバー5人が、首を縦に振る。
『ゴブリンが出たときは、これで殴る』
キャロルは、彼女の背丈ほどもある棒を振り回していた。倒せないまでも、追い払えればよいという考えらしい。幸い、今日の宿代は何とか出せそうな状況だったので、
『分かった。今日は、お前たちの護衛をしよう』
ボナは諦めたように言った
(本当は、そんな余裕はないのだけれども・・・)
・・・
西門では、ボナが冒険者ギルドのカードを見せると、キャロルたちは同行者と言わんばかりにそのままついてきた。門番も子供たちはあまり気にしない。手を振って見送ってくれた。
『キャロル。目的の場所はあるのか?』
『もちろんだよ。 兄ちゃん!』
ボナの問いに自信ありげに答えるキャロル。どうやら、過去にも同じように薬草を採りに来ているらしい。キャロルに先導されるまま、街壁近くを移動していくと、草が生い茂っている開けたところに出た。
『さあ・・・今日は兄ちゃんが護衛してくれるから安心して採りまくるよ~♪』
キャロルの掛け声とともに、周辺に散らばって草を一斉に取り始めた。よく見ると、よもぎのような形をした緑色の草を集めている。一面同じ草らしく、どんどん摘み取っていく。
ボナは袋一杯になったところで、立ち上がり、伸びをしたのを見て
『キャロル・・・これって、いくらぐらいになるんだ?』
思わず聞いたボナに
『兄ちゃんは、街中の仕事しかしてなかったからな・・・知らないか・・・薬師ギルドに持っていくと、一袋銀貨1枚と交換してくれるのさ。ただ、ここは街の外だろ・・・普通の子供たちは来ないんだよ』
そう言って、キャロルが笑ったそのとき、
『出た~!』
子どもたちの声が響く。声の方を見ると、ゴブリンが2匹、子供たち目掛けて走ってきていた。思わず、剣を握るボナ。
『今行く』
ゴブリンに向かって走り出す。
(あれ?何か体が軽いような・・・)
明らかに、昨日までとは違う速さで走っている自分に驚きながら、ゴブリンに向かってショートソードを振り下ろす。昨日までと違って、ゴブリンがゆっくり動いているように見えた。2匹とも袈裟がけの一撃で倒してしまったのである。
(あれ・・・こんなに強かったっけ?)
『兄ちゃんすげー』
『強~い!』
背後で子供たちが騒いでいる。彼らは孤児院にいたときのボナを知っているだけに、ゴブリンとはいえ、あっけなく倒したことに驚いているらしかった。
早々に、討伐照明である右耳と、換金できる魔石を回収する。ちょうど窪みがあったので、ゴブリンの死体は窪みに放り込んだ。
『兄ちゃん強くなった?』
皆のところにボナが戻ったところでキャロルが言った。
『かもしれない・・・』
ボナはよくわからないといった感じで肩をすくめながら言った。
『ひょっとして、ステータスチェックしていないでしょ』
キャロルに言われ
『なんのこと?』
思わず言い返すボナ。それを見たキャロルは、やれやれと顔に書いているかのような様子で
『冒険者登録したときに水晶にかざさなかった?』
両手を腰に置き、あきれ顔である。
『あれか・・・えっ?あれって・・・』
独り言のようにブツブツ言っているボナに
『みんなー袋は一杯になったか~』
キャロルの声に
『おう。ばっちりだぜ』
皆、自慢げにいっぱいになった袋を掲げて見せた。
『よおし・・・もう1袋採取して戻ろう』
キャロルの賭け声を受け、周辺で採取を再開する子供たち。
『せっかくだから、兄ちゃんも1袋集めたら』
キャロルが予備の袋をボナに渡してきた。
『おお・・・』
キャロルに言われるまま、ボナは袋を受け取り、よもぎのような葉を回収していく。
『兄ちゃん。株の葉は2枚くらい残してね。そうすれば、また生えてくるからさ』
キャロルはそう言うと、草を回収しはじめた。
・・・
西門から中に戻り、西門の近くにある薬師ギルドに行く。ボナはここに薬師ギルドがあることを初めて知った。
中に入ると、カウンターがいくつか並んでおり、薬草の買取をしているらしい。空いているカウンターにすかさず、キャロルが移動し
『薬草買い取って!』
と声を張り上げた。
『あら。今日は一人多いのね』
買取カウンターの女性が答える。どうやら、キャロルたちは頻繁に来ているらしい。
『どうも。ボナといいます』
思わず、買取カウンターの女性にボナが答えると、
『お兄ちゃんに護衛してもらったの!』
キャロルが楽しそうに言った。そんな会話の最中に、子供たちは、2袋ずつ草で一杯になった袋を置いていく。慌てて、ボナも1袋カウンターに置くと、
『あら。採取もしてくれたんですね。ポージョンの材料はいくらあっても困らないので助かります』
そんなことを言いながら、袋の中を確認し、袋の中身を後ろの大きな籠に空けていく。どうやら信用されているらしい。簡単な確認だけで作業は終了した。
『はい、今日の分ですよ』
買取カウンターの女性から、銀貨を2枚ずつ受け取っていく子供たち。最後にボナにも、
『はい。今日の分です』
銀貨を1枚渡された。
『ポージョンは需要があるのですが、薬草が街の外なので、中々採りに行ってもらえないのです。こうやって孤児院の皆さんが持ってきてくれるので助かっているのですよ』
買取カウンターの女性はそう言ってほほ笑んだ。
(知らなかった・・・ひょっとして、狩りのついでに薬草も集めれば・・・)
『これって、俺が一人で持ってきても買い取ってもらえるんですか?』
真顔で買取カウンターの女性に聞くボナ。
『はい。もちろんです』
当然のことと言わんばかりに買取カウンターの女性が答えた。
助けるつもりが、実は助けられていたり・・・。