第4話 初めての宿
毎朝6時投稿予定です。
初めての外泊
2階の一番奥の部屋の入り口に先ほど受け取った木の板を差し込むと、下扉が開いた。どうやら、この木の板が鍵を解除するようになっているらしい。部屋の中側には、扉に取り付けられた板が、開かないように板を壁にずらせるようになっていた。
(これで部屋にロックをするのか・・・)
札はそのままにしておくらしい。部屋に入った後、扉が開かないようにずらしてある板を動かしてみると、札が抜けなくなった。部屋の中から閉めると、部屋の外にある札が抜けなくなるらしい。
(もしかして、これで部屋に人がいるのか、いないのか判断しているのかも・・・)
構造は理解できなかったボアだが、深く考えないことにした。
・・・
部屋は1人がやっと寝ることが出来る幅のベッドが1つ。そして人が何とか1人通れるくらいの幅のスペースがあるだけの部屋だった。
(思ったより狭いな)
孤児院では自分のスペースなど、最後の2日以外にはなかったのだから、狭いとは言え、1人だけの空間には満足していたものの
(なんか寂しい・・・これに慣れるための2日だったのか?)
狭い空間に息苦しさを感じるボナであった。
(何とか、魔物の討伐で、宿代と食事代は何とかなりそう・・・明日の朝は、パンを買えば何とか足りるだろう・・・)
安いパンを売ってくれるところは知っていたボナであった。
(孤児院にいたときの知識がこんなところで役に立つなんて・・・しかし、宿で2食だと銀貨5枚・・・今日稼ぎがそれだけでなくなってしまう。小銀貨1枚では昼のパンを買ったらほとんど残らない・・・幸い、今日の討伐は約半日だったので、同じペースで討伐できれば今の倍は稼げるはずだ・・・でもギリギリだな・・・)
・・・
『夕食の準備ができましたよ~!』
鍋を叩く音と共に、先程の女の子の声が廊下から響いてきた。
1階に降りていくと、宿泊者と思われる人たちが、厨房の入り口で、オレンジ色の札と交換で食事を受け取っていた。ボナも真似するようにオレンジ色の札を厨房の入り口で差し出すと、パンとスープの入った椀が乗ったトレーを渡された。
『空いている席で食べてくれ、食べ終わったらそこに返してくれ』
トレーを渡した中年男の指さした先には、
“返却口”
と書かれた窓口があり、どうやらそこにトレーを置くことになっているらしい。ボナは小さく頷くと、窓際に空いている席を見つけ、座ってから食べ始めた。
パンは、孤児院で出されていたものと違って、白っぽくいくらか弾力があった。スープは、僅かに塩の味がするだけで、小さな肉と3種類の野菜が僅かに浮いている。パンを口入れてみるが、硬くて噛みきれない。ボナが周りを見ると、他の客は、パンをスープに付けてスープをパンに吸わせてから口に入れていた。
(なるほど・・・食べ方は孤児院と同じだったのか)
パンに弾力があったため、そのまま食べられると思ったことが間違っていたことを理解したボナであった。
(お湯に浸していたのに比べれば・・・)
孤児院に比べれば上等の食事であることを理解しつつ、ボナはパンを飲み込んだ。
・・・
翌朝、早々に宿を出たボナは、なじみのパン屋に向かう。表通りから奥に入った路地にあるそのパン屋の前に着いたボナは
『パンを2つください』
パン屋の中年女性に声を掛けた。女性は、ボナの声に振り返るなり、
『おや、ボナじゃないか。孤児院を出たんだってねえ・・・早速買いに来てくれたのかい』
と言ってボナが皮袋から取り出した小銀貨を受け取ると、平たく黒いパンを5つ取り出した。
『今日はおまけしておくよ。頑張るんだよ』
『カラカルさん。ありがとうございます』
ボナは中年女性・・・このパン屋の女将であるカラカルさんに礼をいうと、西門に向かって走り出した。
(頑張らなくっちゃ)
ボナは自分に言い聞かせるのだった。
・・・
冒険者ギルドのカードを見せて西門を通過したのち、昨日と同じように街道を歩きながら、気配を探していると、今日も北の草原にゴブリンがいるのを発見。見つけ次第、ショートソードで倒していった。
(ゴブリンは稼ぎが悪いから、早くホーンマウスを探そう)
そう思って草原の中に踏み込んでいくと、草原と森の境近くに、昨日見つけた巣穴にそっくりな、直径30㎝くらいの穴を見つけた。
(これはもしかして・・・)
ボナがショートソードを構えた途端、穴からホーンマウスが出てきた。昨日と違うのは、次から次に、計7匹出てきたのである。夢中でショートソードを振るった結果、5匹の首を刎ねることに成功したものの、残り2匹は、腹にショートソードが刺さってしまい、皮が裂けてしまっていた。
(2匹は値が下がるな・・・)
首を跳ねた5匹を皮袋入れ、2匹を両手に1匹ずつ持って西門を指して歩いていく。何とか西門に着くと、門番が呆れたように
『お前、その状態で襲われたらどうするつもりだ?』
ボナが口に加えた冒険者ギルドのカードを奪い取るように確認しながら言った。
『えっ?・・・ああ・・・そうですね』
ボナは門番が何を言っているのか理解したのだった。
(この状態で襲われたら危険だった)
その反応を見た門番は、
『どうやら気が付いたらしいが、命は1つしかねえ・・・大事しろ』
そう言うと、冒険者ギルドのカードをリュックの中に放り込んだ。
『早くギルド行ってこい』
ボナは門番に追い払われるように西門を後にしたのだった。
・・・
『うーん。この2匹はなあ・・・』
買取カウンターのギルド職員が唸るように言った。昨日と同じ状態のホーンマウスは、銀貨5枚、但し、解体料が銀貨1枚で、銀貨4枚で引き取ってもらえたのだが、ボナが両手に持ってきた2匹は皮が裂けてしまっているために、値がつかないらしかった。
『悪いが、魔石と肉で小銀貨1枚・・・2匹だから小銀貨2枚が限界だな』
解体料はサービスしてくれたのだが、これ以上の値は付けられないと言われ、ガックリと肩を落とすボナであった。
(苦労して持ってきたのに・・・)
あまり上手く行きません。安定した暮らしを目指して・・・。