第18話 鍛冶屋
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ボナは、連日、オークを狩った。但し、これ以上目立つのは不味いと思い、冒険者ギルドには、1日1匹だけ換金していた。
(この程度なら大丈夫だろう・・・)
マトヤの街は、人口が2万4千人もいるのだという。ブラックマウスと違い、かなり一般的な食肉であるオーク肉は、100㎏程度毎日納品されたところで問題になるはずがなかった。
マトヤの街で1日に消費されるオーク肉は4,800㎏もあり、他の冒険者や、近隣の村から納品される大量のオーク肉が街にあったのである。
ボナが街を歩いていても、屋台ではオーク肉の串焼きが売られており、食堂でもオーク肉の料理は一般的なものであった。
そうしているうちに、月末がやって来たである。来月には、王都でボナの件が冒険者ギルドから報告されると、調査が始まるだろう・・・マトヤの街は王都から近いのですぐに連絡が来るはずだった。
(そろそろ、次の目的地に行くことにしよう・・・。その前に剣の手入れをしておくか)
ボナは、オーク狩りに使っている剣を持って冒険者ギルドの売店に向かった。
・・・
『すいませ~ん』
ボナが売店の入り口で声を張り上げると、見覚えのある老人が現れた。
『大声を出さなくても聞こえるがな』
老人はそう言いながら、ボナを見つめた。
『あの・・・先日購入した剣のメンテナンスをしたいのですが・・・』
ボナは老人に向かって話しかけた。
『ここでは剣の整備はしておらんのじゃ。鍛冶師を紹介するからそこで相談してくれ』
老人はそう言うとボナに1枚の紙きれを渡した。紙には地図が書いてあった。
『そこが鍛冶師コバーシュの店じゃ。お前が買った剣を作ったのがそいつじゃ』
老人はそう言うと、店の奥に引っ込んでしまった。
(なるほど・・・作った鍛冶師のところでメンテナンスをしてもらえということか)
ボナは、冒険者ギルドの売店を出て、地図に書いてある店に向かうことにした。
・・・
地図にあった店は、通りから路地に入ってしばらく行ったところにあった。どういう訳か看板すら出ていない
(地図だとここだよな・・・店のように見えないのだけれども・・・)
ボナは不安になりながら入り口の戸を叩いた。しばらくすると、髭だらけの小男が出てきた。
『お前がボナか』
いきなり問われたボナは驚きつつも
『はい。先日冒険者ギルドの売店で購入した剣の手入れしてもらいたくて・・・』
話始めたボナを遮るように
『中に入れ』
小男に腕を掴まれたボナは、家の中に引きずり込まれたのだった。
・・・
建物の中は、鍛冶師の作業場だった。隅に用意されていたテーブルと椅子のところに連れていかれ、座らされたボナは、小男のあまりに強い力に驚いていた
(この人。ただの鍛冶師じゃないようだ)
ボナは直観的に悟ったのであった。
小男は奥の部屋から何か取り出してきた。丁寧に布に包まれてはいたが、剣のように見える。そして、もう1つ小箱を抱えてきた。
小男はテーブルの上に持ってきた布と小箱を置くと、布をほどき始めた。そして出てきた者は、ボナの予想通り剣・・・それも人目見てわかる、高価な剣であった。
小男は、剣をテーブルに置くと、何か思いつめたようにボナの対面にある椅子に座った。
『坊ちゃん。よくぞ無事で!』
小男はそう叫ぶとテーブルに頭を打ち付けんばかりに下げたのであった。
事情がわからず、どうしていいのかわからないボナを無視するように
『ボナ様の子息が無事だったことは、大変うれしいこと。今まで、お助けできなかったことをお許しください』
小男は頭をテーブルに打ち付けたまま言った。
『どういうことですか?』
ボナは小男を見ながら言った。
『坊ちゃんの名前は、ジュアル=ラィシカーラクセン様です。ボナ=ラィシカーラクセン様のただ一人のお子様です』
小男は頭をテーブルに打ち付けたまま、話続けた。
『ボナ=ラィシカーラクセン様は、陛下の子を身籠られた。だが、それは禁じられた恋の末であり、認められるものではなかったのです。そのため、ボナ様は王宮を抜け出し、王都のとある場所に隠れて坊ちゃんを産んだのです。ですが、坊ちゃんが生まれて間もなく、王宮に居場所を見つけられてしまい、ボナ様は生まれたばかりの坊ちゃまを自分が使っているタオルに巻いて逃げ出したのだそうです。翌日、ボナ様は王都の東の森の中で、遺体として発見されました。魔物に半分食べられていたため、詳しいことは不明でした』
ボナは、頭をテーブルに打ち付けたまま話をする小男を呆然と見ていた。
『実は、私とボナ様の執事をしていたセベスティンは、ボナ様が産気づく前に受けていた指示に従い、ボナ様が隠れていた場所から、指示された場所に隠されていたものを守るため、マトヤの街に移り住んでおりました。ボナ様のことなので、きっと坊ちゃんをどこか安全なところに預けられたと信じて・・・』
『頭を上げてください』
ボナは辛うじて、言葉を発した。小男は慌てて姿勢を正す。ボナが小男の顔を見ると、両目から頬を川が流れていた。
『つまり・・・私の本当の名前はジュアル=ラィシカーラクセンというのですか?』
ボナは冒険者ギルドの水晶で見た情報を思い出した
(確か、真名:ジュアル=ラィシカーラクセン って書いてあった)
『はい。坊ちゃんはボナ様の実家である、ラィシカーラクセン家のものとして出生されました。これは間違いありません。なので、冒険者ギルド発行のカードに真名があったはずです』
小男は、顔を拭くこともせずに話し続けた。
『何故、王宮から捜索の依頼書が出ているのでしょうか』
スキッドから見せてもらった依頼書を思い出していた。
ラィシカーラクセン家・・・何者なのでしょうか。