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吸血鬼

作者: 黒実 音子

死者の富栄養化で

増えすぎた蠅の軍勢は、

止まり木を見いだせず、

意思の無い

集合意識の中で狼狽する。


その様に最適化されていない

肉体の構造は、

行き過ぎた繁栄の果てに

自らの(サルコメア)

地上のキリストの楽園から

追放してしまうのだ。


松明の無い夜の海上で

敗血症で死んだ者と

生者の肉体を

見分ける術を

無口なハバナの漁師達は知らない。


牡蠣が下痢性(ディノフィシス)の毒を持つ月に

現実が過剰となった空間では

甲板の上で

屍衣と、左足の麻靴(アルパルガータ)を引き摺った

肉体が動き回るのだから。


我々は大地に血を流さずとも

だらしなく間質液を垂れ流し、

瀬戸際で生かされている泥だ。

故に、

破壊された血漿を持つ死者が

暖を取ろうと

健全な者達の血を求めた所で

逸脱した余剰(アニマ・)(ソラ)

正常に戻る事はない。


ああ、

怪物よ!!

血管にカテーテルを挿入し、

それでもラザロになれぬ

我らの血の味を

パトウアで語れ!!

おお!!

気高さというものを教えてやろう・・


血の馴れ合いと、

縞蚯蚓(ロンブリス・ロハ・ラヤーダ)の這い回る

腐った土壌に縛られた呪いにより、

人は何でもない

無力な死体にすら殺されていく。


貧困故に

棺桶を買い、

吸血鬼を土に埋める金も無い我々は

ヌカカの多い土地に留まり、

その肉体を不健全に摩耗する。


菲薄化した魂は吸血鬼となり、

治癒する事のない

閉塞した現実で

じっと雛豆(ガルバンソ)を見つめ続けるのだ。

彼らは何もしない。

漁師達は言う。

「あれは、惨めさの残滓だからね」


一方で裕福層は

生まれてから何度罪を犯そうと、

石を投げ続け、

吸血鬼がいようといまいと

死んだ動物の油で

自分の皿を汚し続ける。

()粘膜()から()()

己の血を永らえ、

劇場で熾天使を演じる。


ああ!!

我々は

誰もが恥という腫瘍を抱え、

キリストの十字架を恐れる。

その潰瘍の悪臭を隠し、

何事も無い様な顔で

ミサに出席するのだ。


やめろ!!

草を守る為にその鹿(シエルボ)を撃つな!!

心臓を破壊され、

倒れたその骸が

結局は草を下敷きにしてしまう。


ああ、私は呪われた死者に言う。

その場から立ち去れ!!

元の姿に戻れ!!

日の下で横たわるただの腐肉(カローニャ)に。

そして、私達に

死人がただ朽ちていく

当たり前の日常を送らせてくれ!!


そして、明け方に死者は去った・・

何もかもが

神の常識の下に動き始めた。


死者の臭気。

カサカサに乾いた(カダーヴェル・)死骸(デ・ポリーリャ)

全てが健全だ・・


その青黒い死体の目の奥に

どんな喪失と絶望が埋まっていようと

全ては過去という時間に埋め立てられ、

それを書き記した書記官がいない以上、

あの日々は

田舎の墓穴の迷信に埋もれていくのだ。

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