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ペリドットの寺  作者: 寄付
月の桃
16/17

月の桃 4



「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」


「で、何なんだ?説明しろ」

「うん。聞きたい」

「えー、帰ってからにしましょうよ。僕だって永遠が欲しいんですから」


「もう十分生きてるだろ」

「えー」

蘭滋らんじさんが渋って月の方を見る。


「心配するな、桃食った時から俺たちには興味無くしてる」

「あ、そうなんですか?見られてると思ってお行儀よく食べてたんですが、無駄でしたね」

「ああ」



「では、話しましょう。ただしこれは僕の想像です、仮説ですらない」

「うん」

「しかし、絵都えつ君がひらめいて、華寿海かすみがこれは神の仕業だと確定させましたからね。1%ぐらいは可能性があるのではないかと思っています」

「そんなに低いの?」

「逆です。こんなに高いんですよ」


「世界には、様々な神様がいて、それらにまつわる話も様々あります。大抵は僕たちにとって大昔の話ですね」

「うん」

「世界中の神のエピソードを見比べていくと、いくつかの話に共通した特徴が見えてきたりします」

「神様たちが同じようなことをしてるってこと?」

「そうですね。例えば、『神様が世界を作った』というのもそうですね」

「え!そうじゃないところもあるの?」

「ええ。『とても身体が大きな巨人がおり、その死体から万物が生まれた』というようなエピソードが語られる地域もあります」

「へぇ…」


「他にみられる共通点の一つが、『神が人間に選択肢を与え、人間の生死を左右する』という話です」

「…どういうこと?」

「……」

「例えば、神様が人間に石と果物を授けます。絵都君だったらどちらを選びますか?」

「石って、ただの石?」

「ええ、綺麗な宝石ではなく」

「じゃあ果物かな、美味しいし」

「私も同じです」


「でも、桃を選んだ人間から、神は永遠を奪ってしまうんですね」

「どうして?」

「石は硬くて不変だから、果物は柔らかくて腐りやすいから、だそうです。そうして神は、人間を果物のように脆くて老いやすく、つまりは死を与えるのですね」

「…うーん」

「まぁ、そういう神もいたという話です」

「分かった」


「そして、ここでもそれが行われていたとしましょう。僕たちは神様に試されていました」

「うん」

「果物は桃、石は輪の向こう側に、同じように皿に乗せられているのでしょうね」

「え?でも『向こう側に石は無い』とか言ってなかった?」


「それは嘘です。僕には石が有るのか無いのかわかりません」

「え」

「有るか分からないのに、反対側に行くなんて面倒でしょう」

「若返りの薬のためなら月まで行くんじゃないのか?」

「華寿海…、二人が寝ている間に、僕がどれだけ歩いたか分かりますか…?僕は二人と違って家に引き篭もっていますから」

「ははは」

蘭滋さんの大袈裟な表情が面白かった。


「それに僕も桃を食べたかったですし」

「帰ってから食え」

「ふふ」


「で、結局何なんだ?」

「簡単に言えば、」


「まず、神様に桃と石を選択させられそうになりました」

「うん」

「しかし、僕は大きな月の光を浴びて錯乱し、桃と月の区別が付かなくなってしまい、『月』を選んだということです」

「そういうことか…」

「月も石と同じように不死の象徴ですから、僕は永遠の命を得られたのかもしれません」

「ああ、神様を騙したってこと?」

「そうも言えます」

当然のような顔をして、蘭滋さんが言う。


「まぁ、僕の妄想でしょうけどね。そこまで期待していません」

「だな」



「僕は、絵都君が『桃』を選んだのが意外でした」

「……よく分からないから」

「何がですか?」

「…、分からない」


「そうですか、ではこれから分かっていけたら良いですね」

「うん…」


何も分からない僕は、空いた皿をずっと見ていた。

僕が付けた深い傷は、もうそこには残っていなかった。

音のない空間で、蘭滋さんの声が遠くへ逃げていく。

未熟、未形、未定。

苦い気持ちだけが、胸に残った。



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