log in - 02:きゃらくたぁーめいきんぐ?
「えと……おてすうを、おかけしまし、た?」
「いえ、落ち着いたようでなによりです」
待つこと、10数分。一頻りはしゃいだ少女は、漸く落ち着きを取り戻したようで、恐る恐ると上目使いで私を窺い見上げてきます。
ええ、問題ありません。私も、自分の感情なのでしょうか? それを、持て余していましたからね。
「それでは、これよりキャラクターメイキングを開始いたします。よろしいでしょうか?」
「……きゃらくたぁーめいきんぐ……?」
………………………………………。
何でしょう? 今、底知れなく冷たい風が吹いたように感じられたね……。
いえ、どうも……それは決して錯覚と呼べるものではなかったようです。きっと、頭を抱えて蹲るような事態とは、こういったものなのでしょうね。
このゲームは先に述べた通り、剣と魔法のファンタジー、です。
そして、彼女にとっては……。
けん?
と……。
まほう?
の……。
ふぁんたじぃー……??
だったのです。
そう……例えば、剣。
姉から物語などを読み聞かせれたはいて、それが武器……相手を傷つけるための道具だということは分かってこそいたものの。それが、具体的にどういったものなのかなどは、目が見えていなかった彼女が正確に把握できていたはず……ありませんよね?
故に、ここで彼女のイメージと現実を、すり合せる必要が出てきました。
はい、お勉強の時間です。
……と、まあ……頑張りました。とても、頑張りました。ええ、政治経済にまで飛び火したのは少々やり過ぎた感はありますが……。
いえ、言い訳に聞こえるかもしれませんが、苦労したんですよ……説明。
リアルとファンタジーの違い。
1つは、魔法。
1つは、モンスター?
1つは、ダンジョン?
最後に、種族?
中には、浮遊大陸や飛空艇なども挙げられるかもしれませんが、これらは魔法(?)に関係してくるものでしょう。
それで、まあ……魔法。こういった不思議な力がファンタジーにはありますよ、とグラフィック映像を交えて教えつつ、現実にもそれと似たようなことができる道具があるのですが、といった辺りから脱線し始めましたか……?
そして、彼女にはモンスターと動物、ダンジョンと天然洞窟のの区別がつかないわけで……そこをファンタジーだから、となると先の脱線へと戻り複雑化。
種族に至っては、そんな姿をした存在は現実に存在しないと言っても、彼女にとっては確認のしようがなく。そんな種族独自の現実には無い文化(?)の話になると……(ry
彼女の、お目めを“キラ、キラ”と輝かせての、なに!? なぜ!? どうして!? 攻撃を前に、答えを濁すことなど出来るはずもなく……私は、彼女がある程度満足できるまで根気よく付き合うこととなったのでした。
かくして、10日。とりあえずは問題が出ないであろうと思える程度の常識は詰め込んだものの……不安です。
……おかしいですね? 今の私には、このように感情のようなものが芽生えるほどの学習データは存在しないはずなのですけれど……。
いえ、とりあえず置いておきましょう。
これで、漸く……漸くキャラクターの製作を始めることができます。
「それでは、いよいよキャラクターメイキングを行いたいと思います。よろしいですね、奏?」
「はいっ! ナナせんせぇっ!!」
……はい、この10日間の授業(?)の中で、彼女は私をナナと呼ぶようになりました。
No.77で、ナナ。安直とは思いましたが、無垢な絵がをを向けてくる彼女を前に、私はその呼びなを受け入れるほかありませんでした。
「……こほん! それではまず、キャラクターネームを決めてください。因みに、本名はお勧めしませんよ?」
「あう!? うぅ~~~ん……えと、ね? ユーリで!!」
「……参考までに、なぜその名に?」
少なくとも、自分の名前との関わりはなさそうです。単純に響きからでしょうか……?
「おねえちゃんのなまえが、ゆりかだから!」
……なるほど。
「奏は、お姉さんのことが大好きなのですね?」
「うんっ!!」
間髪開けずに元気な返事が返ってきました、ね。それほどですか。
年齢の割に幼い口調なのは、家族以外の人とは殆ど接していないせいなのでしょう。
ですが、その家族から……とりわけ姉には可愛がられているようですね。笑顔がとても、眩しいです。
「それでは、改めまして……ユーリ、続いて種族の選択をお願いします」
「う~~~んとぉ……じゃあ! らんだむでっ!!」
……チャレンジゃですね。
まあ、確かに選択できる種族……多いですからね。
ヒューマン、ドワーフ、エルフ、獣人のファンタジー定番種族に始まり。ゴブリンやサハギン、スケルトンといった、作品によってはモンスターとされているものまで他種に及びます。
まあ、ゴブリンは特殊で、ノアル系と|モンスター系の2種類が存在しているのですが、ね。
で、ランダムですか? そうですか……。1回限りの確定で……変更、できませんよ?
まあ、ランダム選択にもメリットはあります。というか、メリットがなければまず選択する人はいないでしょうし、ね。
では、そのメリットとは?
それは、後々プレイヤーが特殊な進化……いえ、この場合は変異が正確でしょうか? を、することによってなれるかもしれない種族やイベント専用のNPC、一部の特殊なモンスター等が含まれていることねす。
まあ、当たるかどうかは、もっとも確率の低い種族で0,の後に……0が10ほど列なる程度の確率になりますが……。
それにしても、本当に……ゴブリンとかになったらどうするんでしょうかね、この娘は……。
いえ、きっと全く気にならないんでしょうね。気持ちが悪いという、見た目的な判断基準がこの娘にはないでしょうから……。
「で、では……種族をランダムで選択します」
「わく、わくっ!」
そんな、オノマトペを声にしなくても。それに、期待に胸を膨らませる間もなく一瞬ですよ、決まるの。
そうして、その刹那が訪れ。
「……え?」
「ふみ?」
それを目にして思わず口から零れ出た私の疑問の声に、ユーリの小首が“コテン”と傾く。
……は!? いけません、思わず釘付けになってしまいました。今はそれどころではないのです。
え~~と、これは……本当に、いいのでしょうか……?
いえ、こうして表示されている以上、問題はないのでしょうけれど……。
ですが、他者はともかくユーリに関して言えば、問題……大ありでしょう。
ネットゲームにおけるこの手の問題による人間関係的なあれやこれやに、ユーリが対処できるとは到底思えません。事案確定です。炎上案件です。
とはいえ、私には……どうすることもできません。とても、歯痒いです。
「えと、えと……ナナせんせぇ?」
うっ!? その期待に満ちた眼差しが……痛い。
恨みますよ、運営。本当に、コレ……どうしたらいいんですか?
―― 種族:エインヘリアル ――
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