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10.新たな始まり

混乱した頭と心を抱えたまま一睡も出来ずに朝を迎えることになった。


鏡に写る顔は我ながら酷いものだった。

眼の下には隈があり生気を感じられない顔色。どんなに体調を崩したときでもここまで酷いことはなかった気がする。



いつもなら俺の心配をしてくれる家族は今はいない。


誰にも気遣われない状況がこんなに辛いとは知らなかった。家族に囲まれさり気ない気遣い、親身な思いやりが普通にあった。


当たり前だと思っていたことがなくなる。


…想像もしなかった。



だが今更どうも出来ない。それは一晩考えて辿り着いた答えだった。

エラの真意も息子の気持ちも分からないままだったが、もう元には戻らない、俺が望んだ形にはならないことだけは分かった。



…もう前に進むしかない。



今は心にぽっかりと穴が空いているが、アマンダとの生活が始まればこの穴も新たな幸せですぐに埋まるはず。

それは確定されている未来だった、そこに不安など一切ない。


今の不安もあと少しの辛抱だ。




俺は落ち込む気持ちを押し隠していつも通りに騎士団の仕事へと向かった。

騎士団では婚姻や離縁などがあった場合には速やかに上司に報告するのが慣習となっている。だから俺も出勤するとまず団長のもとに行き離縁のことを話した。


「団長、今よろしいですか?実は昨日妻エラとの離縁が正式に成立しました。仕事は今まで通りで大丈夫ですのでご迷惑をお掛けすることはないと思いますが、とりあえず報告いたします」

「ちょ、ちょっと待て!今なんて言ったんだ?離縁と聞こえたが…」


俺の報告を聞き団長はとても驚いている。騎士達は遠征があったりするので職業柄離縁も少なくないので、こんな報告は珍しいともいえないはずなのに。


きっとエラと俺の仲睦まじい様子しか知らなかったから信じられないのだろう。


「はい、離縁で間違いありません。揉めることなく別れたので仕事への影響はありません。ただ近々再婚する予定ですので、正式に決まりましたらご報告いたします」


俺の言葉を聞き団長の表情は驚きが増していく。

そして『とにかく詳しいことを話せ』と言ってきたので俺は隠すことなくエラとの円満離縁と元妻について行った息子のこと、そして大切にしたい存在であるアマンダとの再婚について伝えた。


団長は頭を抱えながら『お前って奴は…馬鹿なことを…』とブツブツと呟いている。


確かに離縁のあとすぐに再婚は外聞は悪いが、揉めずに離縁しているし問題はないはずだ。


最初は良くは思われないだろうが、きっと時間の経過とともに真実の愛を周りは受け入れてくれる。

世間とはそういうものだ。厳しいだけではない、必死に生きている者を受け入れてくれる優しさがある。


その証拠に若くして結婚して困窮していた時も周りはいろいろと助けてくれていた。

だから今の俺がある。


これからだって今までと同じようにしていけば大丈夫だ。

アマンダとともに。



俺の想いが団長にもちゃんと伝わったようだった。


「はぁ…お前が自分で決めたことなら俺は何も言わん。まあ…頑張れよ、トウイ」


団長は最後にはそう言って俺の肩を叩いてくれた。

まずは団長に祝福され最初の一歩は幸先の良いものとなった。


いろいろと予想外のことがあって落ち込んでいた俺の心は朝と違って軽くなっていく。


 はっはは、考えすぎだったか。

 案ずるより産むが易しだったな。

 少し予定とは違ったけれど大丈夫だな。


 これから新たな幸せが待っているぞ。

 アマンダと一緒ならどんなことだって幸せだ。




いろいろと混乱し不安になったが結果良ければ全て良しだろう。


俺はその日のうちに真っ赤な薔薇の花束を持って正式にアマンダ・ドールに婚姻の申込みをした。


『アマンダ、幸せにするよ。これからは俺が君のそばにいるから結婚してくれ』

『はい、トウイ愛しているわ』


彼女は涙を流して喜んでくれている。思っていた通りの返事と態度にホッとした。

予想外のことは起きず、望んでいた通りに順調だった。



俺達は新たな人生を一緒に過ごすことを誓い合い、離縁から一ヶ月後には愛しいアマンダを妻として屋敷に迎え入れることになった。


俺は隣で微笑む新妻を優しく抱き寄せながら思っていた。新たな幸せが始まることで俺の心に空いた穴が埋まる日も遠くはないと。



この時の愚かな俺はその穴が埋まることはないと知る由もなかった。

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