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誤認の実像

間違った認識や教育が革新技術の発展を妨げている。

インターネットを使った犯罪を防止する技術はこの10年飛躍的な成長を見せてきた。しかしこのことは日本では殆ど注目されていない。残念なことだ。


フィンテック(Financial Technology)に関わる防犯技術サービス企業として2013年に創立した英国のElliptic社。そのアジア代表の谷上建氏によればブロックチェーン技術が認知され始めた2012年の「ビットコインの取引額の35%は非合法目的」であったが、2020年には防犯技術が発展したため、この非合法比率は1%まで圧縮されたという。 IMF(国際通貨基金)が1998年に発表して世界の専門家がいわゆる「コンセンサス・レンジ」として認識している金融市場のマネーロンダリング額の比率は2〜5%である。つまりビットコインの非合法1%とは、荒っぽく言えば「フィアットマネー(現実通貨)の世界より低い」ということになる。


ところが、暗号通貨は今でも犯罪や非合法の汚名を負ったままだ。人の風評というのは事実よりも強靭な市場圧力である。銀行も金融ブローカーも仲介業者も一切必要としない「ネット上の直接取引」を始めて実現したブロックチェーンなのだが、今この時点でも、ともすれば犯罪の片棒を担ぐ違法技術のような評価を受けている。


BCブロックチェーン千夜一夜の第4話は、この革命的技術が残念ながら非合法の汚名を被るきっかけとなってきたいくつかの事件を取り上げて、マスコミや一般ユーザーの誤解を少しでも解消したい。そして、まず最初に結論めいた見解を述べれば、「現在」のブロックチェーンによる取引は、所詮はWeb2.0の世界、つまり中央集中型のクライアントサーバーを拠点とする旧体制の枠組みから一つも抜け出ていない。ここに全ての問題の原点がある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()P()2()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。


ここで紹介する(日本ではあまり知られていない)シルクロード事件や、マウントゴックス事件は全てWeb2.0環境の事件であり、この連載の最初の2つの話で紹介したような完全なBC経済圏エコシステムでは全く発生し得ない事件である。そのことがよくわかるように工夫をして話をする。



Ross William Ulbricht (2022年現在38歳、以降「ウルブレヒト」)はペンシルベニア州立大学の修士号を持つ有能な技術者だ。但し彼は現在アリゾナ州ツースコンにある連邦刑務所に収監されている。彼の刑期はなんと終身刑の2倍と40年という異例ともいえるものだ。


有能であるが故に人生を棒に振ってしまった若き技術者について恩赦を嘆願する人々が今でも彼のウェブサイトに投稿を寄せている。いったい彼は何をしたのか?


2011年2月、サトシ・アンドレーセンがビットコインを立ち上げて僅か数年のその年にウルブレヒトは闇取引を実現する画期的なマーケットプレイス(ネット上の取引サイト)を開設した。開設したネット環境はアクセスする端末のIPアドレスを秘匿扱いにできるTORといういわゆるダーク・ウェブ環境であり、闇サイトは「シルクロード」と命名されていた。そしてここでの取引には現実通貨でなくビットコインが使われる仕組みを持っていた。


ここで重要なことは、ウルブレヒトがその才能を闇取引に活用したことだけではない。重要なのは、彼がWeb2.0の裏サイトであるTORの中に、P2Pではないクライアント・サーバーを設立することで非合法バイヤーと非合法ベンダーを結びつける環境を構築したこと。そしてその取引手段として(本来P2P専用の取引システムである)ビットコインを悪用したことだ。全てのマスコミ、Wikipedia、ネット記事は、彼がブロックチェーンのコア技術を悪用したかのように記述しているが、これは半分正しいが、半分は誤解である。正しくは、彼はTORというダークサイトを悪用してクライアント・サーバーを運用することで闇バイヤーと闇ベンダーの仲介を企てたのであり、その決済にビットコインを利用したのである。そして、確かにビットコインの活用は、彼が企てた闇取引の運用に有利であったが、実際には、これが非合法と判明した瞬間から、ブロックチェーンの利用はむしろ取引の事実を全く隠蔽できない確たる証拠として絶対に揉み消すことができない分散台帳として残ることになったのだ。これが通常の紙幣での取引なら、おそらくすぐに足がついてしまっただろうが、ビットコインほど精緻なタイムスタンプ付きの記録が誰の目にも明らかな形で残ることはなかった。


ウルブレヒトが活用できたのはこの連載で述べてきた「アドレス・トライアングル」の「公開アドレス」部分の秘匿性であったのだが、しかし、非合法な取引の場合にトライングルの最後の点である「実名」が合法的に調査される局面になり、その瞬間に(秘密鍵の有無とは無関係に)関係者間の取引経路がタイムスタンプ付きで白日のもとに晒されることになったのだ。


ブロックチェーンの「秘匿性」と「透明性」の共存構造はまさにここにある。そのことをウルブレヒトが十分理解していたなら、彼は闇取引サイトのシルクロードの営業は思いとどまったはずだ。


かくしてウルブレヒトは2013年10月、闇サイトの立ち上げから2年と8ヶ月の後にサンフランシスコの市営図書館においてFBIの手により逮捕された。前述のEllistic社の調査によれば、当時彼の闇サイトは15万人ものバイヤーと、そして4千のベンダーとの取引を実現しており、当時の評価額で1億83百万$を売り上げていて、ウルブレヒト名義のビットコインは174,000 BTC(時価1億と5百万$)であったという。


彼が取引の口銭コミッションを受け取る目的に使った当時のビットコインの公開アドレスは今でも参照可能であり、そのアドレスは次のとおりである。一説によれば、このアドレスの秘密鍵もハッカー集団により既に解明されているという。その意味で、このアドレス・トライアングルは完全に秘匿性を暴かれてしまった状態にあるようだ。


1HQ3Go3ggs8pFnXuHVHRytPCq5fGG8Hbhx

(最初の1は情報管理のための符号。これに続く33バイトがアドレスである)



2014年のマウントゴックス事件はもう少し単純な話である。


つまり全くのWeb2.0環境にあったマウントゴックス社のサーバーが何者かによってハッキングされ、ビットコイン(BTC)と預かり金が大量流出してしまった。おそらくは客先から預かっていたウオレット情報(アドレストライアングルの内容)も流出してしまったのであろう。何ともセキュリティーの甘い会社である。


失われたビットコイン(BTC)の総額はユーザーに所有権のある約75万BTCとMG社保有分の約10万BTCで、当時のレートでは約470億円に相当した。しかし、もし当時のユーザーが全員P2P環境を使っていて、秘密鍵も自分だけで保有管理していたなら、MG社がハッキングされても何ら問題はなかったはずである。


別の言い方をしよう。正しいBC経済圏エコシステムが確立した取引環境であったなら、MG社という仲介業者は最初から全く必要ないのである。人々はP2Pのネット環境でビットコインを取引するパソコンの操作方法を知らないので、MG社に取引を委託したのだ。しかし、そうするのは、実は普通に銀行取引をするのと何ら変わりはなく、寧ろアドレス・トライアングルの秘密鍵情報と実名情報までご丁寧にMG社に開示して全てを任せるという意味不明の取引に参加することになる。無名のスタートアップ企業に預金通帳と銀行印を預けるのと全く同じ行為である。


早稲田大学のファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄教授は2014年3月19日の日本記者クラブでの歴史的な講演において以下のように述べている。(Youtubeのクリップで検索できる。【研究会「ビットコイン」②野口悠紀雄 早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問 2014.3.19 】を探して、動画開始から50分経過したあたりを視聴願いたい)


「利用者に対する指導が必要です。マウントゴックス事件の場合、盗難に遭ったというのは、おそらくビットコインの保有者はマウントゴックス社に自分の秘密鍵を預けていたのではないかと想像されます。これはとても信じられないような馬鹿げたことです。(ビットコインで取引をする人は)そういうことをしてはいけないということを指導すべきなんですね。報道機関の責任でもあります。」


野口教授が講演した当時Web 3.0という概念は社会に登場していない。しかし教授は早くからビットコインとのアドレス管理の重要性を完全に把握していた数少ない有識者の1人である。この事実をどれだけの日本人が理解しているだろうか?


クライアント・サーバーを介して取引する旧経済圏エコシステムから脱却しない限り、ブロックチェーンの本当の利便性は実現しない。そしてWeb 2.0型の犯罪集団やセキュリティーの脆弱性が新技術の発展を妨げ続けるだろう。ブロックチェーンの本来の価値は今でも充分理解されないままなのである。


第4話   終わり










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