3−姉(現実)と姉(理想)なら?
ちょっと遅くなりましたが……
「あ、あ、あ、姉上―――んぐっ!?」
思わず叫びそうになり、すかさず口をふさがれる。
モガモガと動くとキッと睨まれ、背筋が何故か伸びる。
これは、決して、姉上が怖いとかではない。うん、そういうことにしてくれっ!
冷や汗をタラタラ流す俺に気づかず、彼女が不思議そうに姉上に話しかける。俺は見ていることしかできない。
「アー、お姉さんは彼と知り合いでしょうか?」
いや、お前が誰だよっ!!!……失礼、女の子にお前とか言ってはいけませんでしたねー。
で、キミ誰?俺との初対面のとき、そんな言葉遣いじゃなかったよね?ね、おかしくない?
いや流石にいつもあの喋り方っていうのも変だけど、なんで!?
なんで俺のときと違うの!?
口をふさがれているので思いっきり睨むと、彼女はキミとの出会いは特殊だったからナ、と言った。
(まぁ、確かに?あれは、すごく印象的でしたもんね。第一印象は最悪だしな!)
誰のせいだよ、と恨めしげに彼女を見ていると。
姉上がふ〜ん、と言いながら彼女と俺を眺めてくる。な、なんだよ、その目は!ニマニマすんな!
姉上の手を振り払いながら、意味深な姉上の目から目をそらす。
「ごめんなさいね、突然。愚弟が美人さんといることに、驚いちゃって。私は星川 七海よ。」
そこの愚弟の姉です、と続ける姉上。だぁれが愚弟じゃ、ボケェエエエエっっ!と言えたらどれだけスッキリするだろう。でも言えないのだ。我らが姉上は強すぎる。
姉上がくるりと、彼女から俺の方に向きを変え、声を潜めてきた。
「愚弟、誠実に付き合いなさいよ。こんな美少女、滅多にいないから」
「余計なお世話だ!しかも、俺まだ彼女の名前知らないし」
「嘘でしょう!?ナンパとかありえないんだけど」
「……。姉上?俺のこと何だと思ってるんですか?俺がそんなことできると?」
「あ……ごめん。でも、どうやって知り合ったのよ?」
「えーっと、その」
「アノー、星川七海さん。注文良いですか?」
ナイスタイミング!困っている俺に助け舟を出してくれた彼女、神!
彼女との出会いをどう表したら良いのか、分からなかったのでとても助かった。
いや、だって、正直に言えないじゃん?彼女に冤罪かけられて、飛び蹴りされましたとかさ。
「あっ!ごめんなさい、本当に。どうぞ、大丈夫です」
「えぇっと、じゃあ―――キミからどうぞ」
「ぅえっ!?あ、あぁ、俺はコーヒーとこのケーキで―――っ!!」
ハッ!俺のケーキを注文している場合じゃない!
そうだった。俺はあの、伝説をするんだった!
いよっし!姉上相手に恥ずかしいけど、漢を見せるためなら致し方ない。
「なんか苦手なものはある?」
まずは、相手の好み!嫌いなものを頼んでも意味ないからね。
「特にないガ――じゃなくて、ないけれど……あ、でも、ここらへんは好きじゃないです」
ふむ、タルト系か。俺も嫌い。
じゃあ次は、好きなものを!
「食べたいものとか、好きなもの、ある?」
「好きなものは……このケーキとかここらへんのケーキとか、このパフェとか、このクッキーとか……」
彼女がメニューを指さして教えてくれたが……。
(バラッバラだな……。これじゃ無理じゃねーか!伝説のあれがぁあああああああああああ!!!俺の漢が……)
まぁ、いっか。安上がりだし?姉上にすると、からかわれそうだし?
そう思い直し、彼女に好きなだけ頼んでいいよ、というと。
「じゃあ、これとこれとそれと、あ、あれとあそこの…そう、そのパフェと、これかなぁ……」
めっちゃ頼むなっ!?
安上がりって言えば、安上がりだけど、これは普通に高いぞ…?
それなりにお小遣いは貯めてきたし、別に高くたって、お金を使うときは殆ど無いので大丈夫だ。悲しきことに、誰も誘ってくれないので。
だが、好きなだけ頼んでいいよと言われても、普通遠慮する気がする。
まあ、俺が言ったことなので、今更どうにもできないし、美人に奢るのは大歓迎なのでいいが。
考えるのをやめ、彼女らを眺める。
今は、注文を確かめているのか、彼女が指さしたものを、呪文のように姉上が読み上げている。
(真面目にやってんだな。姉上のことだから、また上手くいってないのかと思ってたわ)
楽しそうな彼女と、姉上を見ながらそんなことを思った。
***
良く舌を噛まないな、と感心しているとそれも終わったようで、姉上が早足で去っていく。
姉上を見送ってから、彼女が可憐な口を開いた。
「ひとまず自己紹介ダナ。ぐ・て・い・さん?」
「ぐっ!?」
ついに!彼女の情報を知れるゼイ金!っとアホなテンションになっていた俺は、突然の流し目に胸を撃ち抜かれる。最強だろ、美人の流し目って。
俺はMではないが、彼女になら愚弟って言われたい。マジ、姉になって欲しい。
弟にしてください、って言おうかな。でも嫌われたらイヤだしな。
うちの姉とは大違いだ。きっと優しくて―――優しい?彼女が?姉になったら?
突然飛び蹴りしてきたり、冤罪で人の顔面を掴んだり、喝上げする人が?
……やっぱり、姉はいいかな…?
そんなふうに悩む俺を、彼女は楽しように見ながら自己紹介を始める。
「まずワタシから良いカ?
ワタシの名は―――
主人公の容姿と、彼女が誰かは次回!