しあわせってこういうことね。
学校の帰りに、近くのコンビニでアイスを買う。ついでにレジ横の肉まんも買った。
「袋ください」
「はい、別に3円頂戴いたします。ご一緒でよろしいでしょうか?」
「はい……?」
私は人の言葉の語感をつかむのが苦手だ。とっさに私が反応した言葉に店員がニコニコと対応をする。アイスと肉まんが一緒に袋に詰められた。
(あ。そういうことか)
別々が良かったんだけどな。でも、店員さん一生懸命仕事しているし、後から言い辛い。良いや、すぐに帰って食べよう。
「ありがとうございます」
「ありがとうございました、またご利用ください!」
親からいつも言われていることは、何事にも感謝の言葉を述べろというもの。「ありがとうございます」は、幸せの呪文なのだそうだ。
坂道を上る。ミカンを沢山落としたおばあちゃんがあたふたしていた。私のアイス、肉まん。相手にしていたら味が落ちる。でも、なんだかその場の雰囲気で助けちゃった。といっても、ミカンを一つだけ拾っただけなんだけれども。
そこにいた人たちが、一つずつミカンを拾っていた。
「はい、おばあちゃん」
「ありがとうねぇ」
気分で助けただけだけど、なんだかその言葉を聞くと、自分が凄いことをしたかのように錯覚する。ミカンを拾っただけなのに。
敢えて、スッとその場を去ってみたりする。
そしたら進行方向が一緒だった。気まずい。
「……寒いですね」
沈黙に耐え切れず出たひとことに、おばあちゃんは反応した。
「そうねぇ。でも家に帰るとストーブがあるから暖かいんよ」
「温まるまで時間かかりますけどね」
「大丈夫。付けたままだから」
「危ないですよ」
少し強めに注意する。冬場は暖房器具の火事が多いから。それよりも、お年寄りは未だにストーブを使っているのか。便利な暖房器具は世の中に沢山あるのに、どうしてストーブなんて使っているのだろう。
「芋がね。美味しくてね」
「?」
お年寄り特有の、話が急にジャンプする現象に名前を付けたい。芋とは?
「ストーブの上で焼く芋が美味しいの」
「あぁ、そういう……」
そういえば小学校の頃。学校のストーブで焼き芋を作っていた子が居たなぁ。あの子、元気かな。やんちゃでグループの中心的存在で牛乳髭作って周囲を笑かしていた子。
「あ、お嬢ちゃん」
おばあちゃんの声で思い出から現実に帰る。
「なんですか」
「これ、お礼よ」
「……サツマイモ?」
私も焼き芋を作れということだろうか? でも、私の家にはストーブが無い。
「じゃあね、お喋り出来て楽しかったわ」
「あ、ええ。こちらこそ」
ニコニコと笑顔で去っていくおばあちゃん。私はサツマイモを裸のまま持つのが恥ずかしくなって、コンビニの袋の中に入れた。すっかり冷めてしまった肉まん。少し柔らかくなったアイス。そして、袋からちょこんとはみ出たサツマイモ。
「……ふふ」
今の状況がなんだか可笑しくって、自然と声が漏れる。こんな日常こそが、きっと幸せなんだなって思う。今日この頃。
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